22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる
成田悠輔(著)
/SB新書
作品情報
断言する。若者が選挙に行って「政治参加」したくらいでは日本は何も変わらない。
これは冷笑ではない。もっと大事なことに目を向けようという呼びかけだ。何がもっと大事なのか? 選挙や政治、そして民主主義というゲームのルール自体をどう作り変えるか考えることだ。ゲームのルールを変えること、つまり革命である――。
22世紀に向けて、読むと社会の見え方が変わる唯一無二の一冊。
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商品情報
- 著者
- 成田悠輔
- 出版社
- SBクリエイティブ
- 掲載誌・レーベル
- SB新書
- 書籍発売日
- 2022.07.05
- Reader Store発売日
- 2022.07.05
- ファイルサイズ
- 13MB
- ページ数
- 256ページ
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この作品のレビュー
平均 3.8 (266件のレビュー)
-
【感想】
「自分ひとりが投票しても何も変わらないと思う」
選挙終了後に若者がよく口にするフレーズだ。選挙に行かない理由にはならないが、クレームの意味は理解できる。結局、自分ひとりが投票行動を変えたとこ…ろで、日本の政治自体が高齢者の既得権益と化している。そもそも誰に票を入れたところで、自分の暮らしが劇的に改善されるような政策なんて生まれるわけがない。政治は亀のように歩みが遅く、自分の望む国ができるよりも前に、自身が高齢者となって既得権益層に吸収されていく。
本書もそうした「選挙なんて意味ない」という諦めからスタートしている。筆者の成田氏は政治家でも政治学者でもなければ、法学者や歴史学者でもない。政治の分野では完全に素人である。政治にも、政治家にも、選挙にもまるで興味が持てない筆者の、「そんなド素人でも政治を考え直す楽しさや面白さを作り出し、未来への戦略を練れないだろうか?」という考えのもと書かれた一冊である。
そうした「政治のドン詰まり」に対して、成田氏が提案する改善策は常軌を逸している。それは「民主主義との闘争」「民主主義からの逃走」「新しい民主主義の構想」の3つに分かれる。各セクションでそれぞれ既存政治の問題点を解決するような提案を打ち出しているが、どの解決策も「結局政治は変わらない」という問題を孕んでおり、根本治療を目指してよりラディカルな方策へとシフトしていく。
例えば、第一段階の「民主主義との闘争」。これは民主主義の原状と愚直に向き合い、現代の仕組みや考え方をそこそこ前提としながら調整や改良を施していくものだ。「有権者の脳内同期や極論化を作る(ソーシャル)メディアに介入して除染する」や「有権者が政治家を選ぶ選挙のルールを未来と外部・他者に向かうよう修正する」というような、現状と折り合いをつけつつ民主主義の劣化を食い止めようとする方法である。バランスの取れた方策だが、結局のところ「民主主義の既得権者は、既得権の源を自ら壊すわけがない」として諦めている。
次の方法は「民主主義からの逃走」だ。これは今の国家を諦め、政治制度を一からデザインし直す独立国家・都市群が、より良い政治・行政サービスを提供すべく、企業や国民を誘致したり選抜したりする世界を目指すものである。既得権益にまみれた国家から逃走し、自らの手で政治を作り出す世界だ。
だがこれも筆者にとっては上手く行かない。当たり前だが、逃げ込んだ先が新たな既得権益の温床になるからだ。
そして最後は、「新しい民主主義の構想」である。これはインターネットや監視カメラ、生体モニターによって人々の意識と無意識の欲望・意思を掴み、様々な政策論点やイシューを「意思決定アルゴリズム」によって自動決定してしまおうという試みだ。政治家はただのマスコット、つまり「ネコ」のようなものと化し、民衆に対してガス抜きをするだけの存在になる。ここまで来るともはやディストピアの世界だ。
だが、無意識民主主義はある意味「今までの民主主義を融合させた最終形態」とも言えるのではないだろうか?そこには大衆の民意による意思決定(選挙民主主義)、少数のエリート選民(アルゴリズムの製作者)による意思決定(知的専制主義)、そして情報・データによる意思決定(客観的最適化)が含まれているからだ。
―――――――――――――――――――――――――
以上が本書のまとめである。
感想だが、やはり「無茶苦茶なこと言うなぁ……」という意見が一番初めに来てしまう。その大部分は「無意識民主主義」に対してだが、それ以前に筆者の分析が合っているのか疑問に感じる部分が少なくない。
例えば、「故障」の章では民主主義の劣化に連動して経済停滞が起こったとしているが、データの面からは、2つが相互に影響を及ぼしあっているのか、独立した変数なのかがイマイチ見えてこない。(政治が大企業の利益になるよう動いているため、政治の劣化によって経済が非効率に歪んでいる、ということならまだ理解できるが)
また、「政治家に定年を設ける」ことで若者のイシューを政治に反映させると述べているが、現在の政治分野で深刻なのは「若者のなり手不足」だ。平成31年の統一地方選挙においては、41の都道府県議選において無投票当選が39%にもおよんでいる。町・村の選挙では更に深刻で、なり手がいないため、引退を表明しているおじいさん政治家を「続けてくれ」と説得する始末だ。つまり、「若者に立候補してほしいけど、誰も手を挙げてくれない」状態である。高齢政治家を締め上げるよりも、「若者をいかに立候補させるか」に焦点を合わせなければ効果が生まれないだろう。
その他、「構想」の章における無意識データ民主主義についても、「人々の意識しない欲求や目的をどうやってデータから吸い上げるのか?」という懸念を払しょくできない。価値判断基準はアルゴリズムを使う人間に委ねられており、そのアルゴリズムも選好が不透明なため、実現には相当な反発があるだろう。
ただ、本書の中で筆者も「こうした選挙制度の調整・改良が民主主義の呪いの根治になるかどうか、そもそも怪しい」と述べているとおり、実現可能性とその効果を検証するのは本当に難しい。政治学であればなおさらだ。そのため、読む際には、「こんなもの現実的ではないよね」という否定的な視点ではなく、「こういう選択もありか」「既存の政治を変えるには、このぐらいの無茶をしないとダメか」という視点のもと、あくまでも可能性の一つとして捉えるのがよいと感じた。
――――――――――――――――――――――――
【まとめ】
0 まえがき
若者が選挙に行って「政治参加」したくらいでは何も変わらない。今の日本人の平均年齢は48歳くらいで、30歳未満の人口は全体の26%。全有権者に占める30歳未満の有権者の割合は13.1%。若者の投票率が上がっても、選挙で負けるマイノリティであることは変わらない。今の日本の政治や社会は、若者の政治参加や選挙に行くといった生ぬるい行動で変わるような状況にないのだ。
もはや、選挙や政治、そして民主主義というゲームのルール自体を作り変えるしかない。
1 資本主義と民主主義の故障
資本主義と民主主義は相反するものだ。前者は成長と格差、後者は分配(成長の鈍化)と平等。
しかし、近年この2つのバランスが崩れ、資本主義が加速する一方、民主主義が重症に陥っている。ネットを通じた民衆動員で夢を実現するはずだった中東民主化運動「アラブの春」は、一瞬だけ火花を散らして挫折し逆流した。むしろネットが拡散するフェイクニュースや陰謀論やヘイトスピーチが選挙を侵食し、北南米や欧州でポピュリスト政治家が増殖したと広く信じられている。
実際、民主主義は後退している。今世紀に入ってから非民主化・専制化する方向に政治制度を変える国が増え、専制国・非民主国に住む人の方が多数派になっている。この傾向はこの5〜10年さらに加速している。
データを見ても、今世紀に入ってから民主主義的な国ほど経済成長が低迷し続けている。もともと同じぐらい豊かな国々の間でも、専制国家の経済成長率のほうが高いことから、「民主主義国家が先に成熟しただけだ」とも言えない。これが「民主主義の失われた20年」である。
この停滞を「民主主義はバカな有権者の意思も反映しなければならないからだ」とする意見もあるが、衆愚論だけでは説明にならない。
20世紀の後半までは、民主国家の方が早く豊かになり、豊かになったあとも高い経済成長率を誇っていた。実際、中世から20世紀までの数百年間の経済成長には民主主義的な政治制度がいい影響を与えたことを示す様々な研究がある。乳幼児死亡率などの公衆衛生指標に対しても、民主主義的な政治制度(特に公正な選挙の導入)が歴史的にいい影響を与えてきたことが示されている。いったい今世紀に何が起きたのか?
それは、インターネットやSNSの浸透に伴って民主主義の劣化が起きたからだ。民主主義の中で起きる情報流通や議論・コミュニケーションが大きく変わり、人々を扇動、分断する傾向が強まったからだ。
これは印象論ではない。データ上でも、政治家のポピュリスト的言動やヘイトスピーチ、イデオロギーの分断などの「民主主義への脅威」の高まりが、もともと民主主義的だった国で特に高まっていることが分かっている。
民主主義の劣化は、民主国家に閉鎖的で近視眼的な空気を植え付けている。そのような状態では、政治家は遠くの成果よりも近くの世論に目を向けざるを得ない。また、民主主義の劣化と同時並行で、経済に関しても、輸出、輸入、投資が減少し生産性が落ちてきている。
21世紀は、常人の直感を超えた速度と大きさで、解決すべき話題が降ってきては爆発している。情報通信環境が激変したにもかかわらず、選挙の設計と運用の仕方は数百年前から変わっていないのが現実だ。
では、重症の民主主義が今世紀を生き延びるためには何が必要なのか?それは「民主主義との闘争」「民主主義からの逃走」「新しい民主主義の構想」だ。
2 民主主義との闘争
第一の「闘争」は、民主主義の原状と愚直に向き合い、現代の仕組みや考え方をそこそこ前提としながら調整や改良を施していく方向だ。
その方法は、大まかに3つに分けられる。
①有権者の脳内同期や極論化を作る(ソーシャル)メディアに介入して除染する
②有権者が政治家を選ぶ選挙のルールを未来と外部・他者に向かうよう修正する
③選ばれた政治家が未来と外部・他者に向かって政策を行うインセンティブを作る
①について:
・SNSなどでの同期コミュニケーションの速度、規模を規制する。また、内容に応じた規制、課税を検討する。
②について;
・政治家に定年や年齢上限といった制限を組み込む。また、ある世代だけが投票できる「世代別選挙区」を作り出すなどして、若年層へのインセンティブを作る。
・医療費控除、子育て支援、性的マイノリティ保護といった全く異なる政策を一人の政治家にパッケージしない。有権者に複数票を持たせ、政治家や政党ごとに投票するのではなく、個別の政策ごとに投票する仕組みをつくる。
③について:
・政治家の目を世論より成果へと振り向けるため、政策成果指標に紐づけた政治家への再選保証や成果報酬を導入する。政策の効果が出るまでには長くかかるため、政治家が退任した後の未来の成果指標に応じて引退後の年金を出す。もちろん成果報酬となじまない政策も多いため、現実的な時間軸で計測可能な政策領域に対してのみ実施する。また、特定の短期成果戦略に引っ張られないよう複数の成果指標を組み合わせる。
3 民主主義からの逃走
そうは言っても、民主主義との闘争ははじめから詰んでいるのかもしれない。選挙や政治や民主主義を内側から変えようと闘争したところで、変えるためには選挙に勝ち、政治を動かす必要がある。しかし、選挙の勝者は今の民主主義の既得権者である。既得権者がなぜ自らの既得権の源を壊そうという気になれるだろう?
では、別の道は?民主主義を内側から変えようとするのではなく、民主主義を見捨てて外部へと逃げ出してしまうのはどうだろう?タックス・ヘイブンがあるように政治的「デモクラシー・ヘイブン」もありえるのではないか?
非効率や不合理を押しつけてくる既存の民主国家を諦める。政治制度を一からデザインし直す独立国家・都市群が、より良い政治・行政サービスを提供すべく、企業や国民を誘致したり選抜したりする世界。新国家群が企業のように競争し、政治制度を資本主義化した世界を目指す。資本主義と民主主義の壊れた二人三脚を超え、すべてを資本主義にする企てと言ってもいい。
実際、どの国も支配していない公海に新国家群を作る「海上自治都市」という構想が企画されている。また、既存自治体を乗っ取って私立都市として独立させるといった荒々しい手法も例がある。
とはいえ、逃走にも落とし穴がある。既存の民主主義から逃亡を果たしても、それは臭いものに蓋をしただけで、新国家の中でも同様に民主主義の問題が発生するということだ。
4 新しい民主主義の構想
民主主義からの逃走と闘争し、民主主義の再生をはかりたい。どうすればできるだろうか。
必要なのは、民主主義を瀕死に追いやった今日の世界環境を踏まえた民主主義の再発明である。民主主義の理念をより正確に余すところなく具現化する制度の発明と言ってもいい。特に、世界と民主主義を食い尽くすようになったアルゴリズム技術環境を逆手に取った選挙の更新だ。それは選挙なしの民主主義、「無意識民主主義」だ。
インターネットや監視カメラが捉える日常の中での言葉や表情や体反応、安眠度合いや心拍数や脇汗量、ドーパミンやセロトニン、オキシトシンなどの神経伝達物質やホルモンの分泌量……人々の意識と無意識の欲望・意思を掴むあらゆるデータ源から、様々な政策論点やイシューに対する人々の意見を汲み取る。これまで民意データを汲み取るための唯一無二のチャンネルだった選挙は、数あるチャンネルの一つに格下げされ、一つのデータ源として相対化される。
従来の選挙の問題点は、立候補した政治家の誰に投票しようとも、投票者の意志のほんの一部しか反映してないことにあった。ならばまずやるべきは、私たちの意志や価値観、声(政策への賞賛や嘲笑など)を幅広い民意データとして大量に集め、「民意」の解像度を上げることだ。その際はインターフェースによる歪みを打ち消すため、一つのチャンネルではなく複数のチャンネルを融合させ平均を取ることが大切になってくる。
集めたデータから意思決定を導き出すのは、自動化・機械化された意思決定アルゴリズムであり、様々な政策成果指標を組み合わせて最適な政策選択を行う。その選択がおかしい場合に異議を唱えるのが、もっぱら人間の役割になる。
意思決定アルゴリズムのデザインは次の二段階で行われる。
①各論点・イシューごとに、まず価値判断の基準や目的関数を民意データから読み取る。たとえば経済政策に欠かせない「どれくらいの平均的成長のためにどれくらいの格差であれば許せるのか」といった価値判断への答えを民意データから読み取る。エビデンスに基づく目的発見だ。
②次に、その価値判断・目的関数にしたがって最適な政策的意思決定を選ぶ。この段階は、過去の様々な政策がどのような成果指標に繋がったのか、過去データを使って効果検証することで実行される。エビデンスに基づく政策立案だ。
現状と対比した無意識データ民主主義は、民意を読みながら政策パッケージをまとめ上げる前の段階をもっとはっきり可視化し、明示化し、ルール化する試みだとも言える。そして、ソフトウェアやアルゴリズムに体を委ねることで、パッケージ化しすぎずに無数の争点にそのまま対峙する試みとも言える。
無意識民主主義は大衆の民意による意思決定(選挙民主主義)、少数のエリート選民による意思決定(知的専制主義)、そして情報・データによる意思決定(客観的最適化)の融合であるのだ。続きを読む投稿日:2022.08.07
(2024/04/07 3h)
ざっくばらんの話し言葉で書かれていて、読みやすいけど癖がある。捻くれた物言いに反発したくなり、素直に評価するのが難しい本。
平均余命で票の重みを操作するっていうのが…叶ったら良いな〜と思う。理想だなあ。続きを読む投稿日:2024.04.07
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