舌を抜かれる女たち
メアリー・ビアード(著)
,宮﨑真紀(訳)
/晶文社
作品情報
メドゥーサ、ピロメラ、ヒラリー・クリントン、テリーザ・メイ…。歴史上長らく、女性たちは公の場で語ることを封じられ、発言力のある女性は忌み嫌われてきた。古代ギリシア・ローマ以来の文芸・美術をひも解くと、見えてくるのは現代社会と地続きにあるミソジニーのルーツ。軽やかなウィットをたずさえて、西洋古典と現代を縦横無尽に行き来しながら、女性の声を奪い続けている伝統の輪郭をあぶり出す。
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この作品のレビュー
平均 3.7 (9件のレビュー)
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原題は「WOMEN&POWER」ですが、邦題はそれに比べるとずいぶんと女性の被害者性を押し出したものとなっています。
●舌を抜かれる女たち、沈黙を破る女たち
表紙に描かれたピロメラは告発を恐れる加…害者によって「舌を抜かれ」ても、タペストリーに織り込むことで自分の身に起きた事件について伝え、復讐を果たした被害女性として語り伝えられています。
タイトルを舌を抜かれる女「たち」としたことで、これが神話の中だけの話でなく現在に至るまで被害に耐え声を上げた女性たちが存在し続けていることを伝えてくれます。
この本が本国イギリスで出たのが2017年(講演自体は2014年と2017年のもの)、日本語版が出たのが2020年。
その間にMeToo運動が世界的に起こり、Timeではthe Silence Breakersが時の人に。その後伊藤詩織さんがsilence breakerと紹介されるなど、沈黙を破り声を上げる被害者達の存在が社会的にも知られるようになっていました。
こうした社会的な流れが、原題をそのまま訳さずに、あえてこの邦題とした背景として少なからずあるのかもしれません。
●なぜこの本を選んだか
この本、WOMEN&POWERについて知ったのはこれらの書評を読んだからでした。
https://www.theguardian.com/books/2017/nov/05/mary-beard-women-and-power-review-modern-feminist-classic
https://www.theguardian.com/books/2017/nov/22/women-and-power-a-manifesto-by-mary-beard-review
1)英語版を手にしなかった理由:西洋と東アジア異なる文脈と緊急性
書評によると、著者は古典学者であり、ギリシャやローマの神話などを示しつつ現代の私たちが抱える問題について語っているということでした。
古典を知ることで今が見えてくることはありますが、私たち日本の文化や歴史がギリシャやローマの"直接的な"流れにはありません。戦後の近代化で表層的に西洋の文化に覆われていますから、もちろんこの本を読んで得られることは少なくありませんが、そのまま日本の諸問題に単純に置き換えることが難しいのもまた事実です。
2017年、私自身非常に悪質な暴力被害を受け続けて命を脅かされている状態でしたから、今すぐに狂気から身を守るために使える実用的な情報を求めていました。この本が命のかかった当時の緊迫した状況を"直接的に"解決する糸口になるとは考えにくく、その時は手にすることを見送ったのでした。
2)日本語版を手にした理由:繰り返される加害集団による暴力の考察
日本語版が出る2020年ごろになると、被害者達の声に耳を傾けて理解を示してくれる方々が少しずつですが増えていました。
その加害集団の暴力はひどいものでしたが、2017年の頃と比べると手術をしたり昏倒を起こしたりと命に危険が及ぶことも減り、「目の前の狂気に殺されないためにどうしたらいいのか」から「なぜあのような暴力が野放しでいられるのか」「なぜあの集団は暴力を繰り返すのか」といったところへ関心が向くようになりました。
理不尽な暴力をやめさせるためにも加害組織の構造や特性を理解する必要があると考えていたときにこの日本語版が出たのです。
(略)
●舌を抜かれたものによる事件考察と読書感想文
この本についての素晴らしい書評は先に挙げたものをはじめ数多くありますから、ここには加害組織からの執拗な暴力で"舌を抜かれたもの"として、事件を振り返りながら本の感想を記していきたいと思います。(以下略)
全文はnote(https://note.com/flowercrown)の本紹介にあります。続きを読む投稿日:2021.06.21
読んでよかった。そして、どこかで見かけた本のような気がするが……思い出せない。ネットだったろうか。新聞の書評だったろうか。どちらで見かけていてもおかしくはないが、思い出せない。
『女性の発言がど…れだけ公の場から排除されてきたか』という事が書かれている。
講演の内容を本にしてあるので、読みやすい。ただ、知らない物語(神話)について知っている前提で書かれているところもあるのでそれについては、自力で調べるしかない。
それらを抜いても、伝えたい事はわかる。繰り返し「女性の発言がどう排除されてきたか』『女性の発言はどう受け止められてきたか』『女性はどのような時にだけ発言が認められたか』が書かれている。
第一部『女が発言すること』
『オデュッセイア』の中で「黙れ、女は人前で発言してはならぬ」というシーンからの考察から書かれている。西欧文学には詳しくないが、最初は丁寧に説明が入っているので、入りやすい。古代ギリシア・ローマ時代から女性は公の場での発言が認められてなかった事が説明されていく。
女性の発言が認められていたのは2つだけ。
『死の直前の発言』と『限定的な範囲内の利益のための発言』
少し前に『米騒動』の映画があって、それは女性たちから始まったと言われているけど。
これも『家族が食べる米すらない』というとても身近で【限定的な範囲の利益】の発言だな……と思った。これも別に女性の発言が通ったわけではなくて、切実な日常の訴えをしたのがたまたま女性でその影響が男性にも及ぶものだったから通じただけかもしれない。と、本を読んで思ってしまった。
本に戻る。
『変身物語』では『レイプされた女性が告発をしようとするのを防ぐために、レイプ魔は舌を切った』という物語があると言う話が出てくる。ここまで来ると本のタイトルの「舌を抜かれる女たち」がここから来ている事が分かる。
女性の発言者たちは、両性有具者とされたり変人とされたりしている。
また、低い声は勇敢さを高い声は臆病さを表してきたとも示している。ここからは、様々な例を引き合いにして女性の発言がどのように見られてきたかという事が書かれていく。
ネット上でのあれこれも混ぜて、女性の発言を奪い、茶化し、脅迫してくる男性たちの姿が描かれている。
ただしそれは、男性だけではなく女性自身も女性の発言に対して同じような信用が出来ないイメージを抱いているという……事でもある。
一部を読んでもまだ『どうしたらいいか』は分からないが、うっすらと形が見えてきたような気がする。
第二部『女がパワーを持つということ』
「フェミジニア――女だけのユートピア』著:シャーロット・パーキンス・ギルマンの物語についての考察から始まっている。
それは女性だけの国に男性がやって来て、国が壊れていくという物語。
女性が女性の力を信じていないという話。
女性が大学教授を想像するとき、女性を想像する事は難しい。その地位にいる女性が少ないからや固定観念が邪魔をするから。
女性が発言をする時は男性のような格好になり、男性のように声を低くする。世界の『女性リーダー』たちはそうしている。
この辺りの例では『ヒラリー・クリントン』や『アンゲラ・メルケル』などが出てくる。
けど、私はエジプトの『ハトシェプスト』を思い出してしまった。詳しいわけではないケド、以前テレビで見ていた時に『男性のような髭』をつけていたとあったから。他にも男性のように振る舞ってエジプトを統治していたと。これもたぶん、『女性は男性のように振る舞わなければ統治者(リーダー)になれない』ということなのかなと。
本の話に戻る。
他にも女性だけの部族『アマゾネス』の話が載っていた。これが事実かそうでないのかはよく分からなかったが、現代ではほぼ否定されて想像の産物という事らしい。アマゾネスも男のように振る舞う女たちの部族で、『男性のように振る舞わなければ統治は出来ない』という話ではないかというのは、なるほどと思えた。
『ブラック・ライヴズ・マター』が三人の女性から始まった。と言うのも初めて知った。女性たちのパワーはいろんな形で新しく動いている。でもその動きは、小さい。
最後に最初の『フェミジニア』の話に戻って、三人の男のうちの一人との間に男の子が生まれた……という話で物語は終わっているとなっている。
強固な『男性の統治者』というイメージは覆りそうにないという事かなと思う。
この後は『あとがき』が続いている。
内容は『女性の失敗は徹底的に攻撃される』という話。
これを読みながら、確か呪術廻戦で『女の子は完璧でなくてはいけないの』……だったかな。そんなセリフがあったなぁと思った。
失敗が許されないというのは、私も感じる。でも同時に、男たちは『女は泣けば済むと思っている』という風にも思っているのを知っている。
さらに『#Me Too』の事が書かれていた。
ここで驚いたのは、レイプ被害の告白をしていることだ。
それについて、当初は『レイプではない。誘惑したのは私の方』とすら語っていたという事。
理由は「疲れていて、拒否をしなかったから」
でもそれを話して聞かせた人の中には『受け身の動詞ばかり使っているのだから、あなたは完全に無力だった。だから、やっぱりレイプよ』と指摘した。とある。
これ、それを言えるのはすごいなと思ってしまう。
男だけではなく女性自身すらも『拒否しなかったならば同意』と思ってしまう価値観の中で、『受け身ばかり』『無力だったからレイプ』と言えるのは『合意のない性行為がレイプである』という認識がなければ言えない。
さらにこういう性行為をレイプと言ったところで『でも拒否しなかったんだろ』という人間たちが一定数いる。
自分自身ですら『レイプ』と認めたくなくて、「自分で誘った」などと思いこもうとする。
彼女自身はトラウマと言えるようなトラウマは見当たらないが、それでも「怒り」はあると。つまり、やりたくてやったわけではない。という事。
レイプの告白とそれについてのあれこれの後は、『男たちはどう思っているのか』についての考えが書かれている。実際にどう思っているのかは分からない。本には「彼女がやりたがっていた」「流れに乗っただけ」と言い訳をしているのでは?と書かれている。
最後に『今こそきっぱり言いましょう、「彼女はちっともやりたがっていなかった!」とある。男たちの物語を変えるには『訴え続ける』しかない。
男……と言ってしまうと広すぎるが、一部の男たちが勝手な妄想の中で生きている。それが現実の女性に加害を行うという事実はある。
という本だった。
読んでみて良かった。無駄に長い感想になってしまった。
そして、訳者のあとがきで本の全てがまとめられている。
上記の私の感想を読むより、『訳者あとがき』を読むのをお勧めする。
『語る事がパワーになる』
疑問を常に持ち続けて、考え続ける大切さ。
最後まで素敵だった。続きを読む投稿日:2023.12.16
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