「こころ」はいかにして生まれるのか 最新脳科学で解き明かす「情動」
櫻井武(著)
/ブルーバックス
作品情報
人は悲しいから泣くのか? それとも泣くから悲しいのか? これは脳科学においては、昔から論争が続いている根源的なテーマです。実は人間の行動は「頭で考えたこと」に従うよりもはるかに、「情動」によって支配されています。情動がなければ、私たちは永遠に意思決定できない場合もあります。いったい情動とは何なのか? それはどこから起こるのか? 最先端のテーマについて、世界のトップランナーが興味津々に解説します!
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商品情報
- 著者
- 櫻井武
- ジャンル
- サイエンス・テクノロジー - 生物・バイオテクノロジー
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- ブルーバックス
- 書籍発売日
- 2018.10.17
- Reader Store発売日
- 2018.10.24
- ファイルサイズ
- 14.2MB
- ページ数
- 240ページ
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この作品のレビュー
平均 3.8 (21件のレビュー)
-
大脳辺縁系の働きや、情動と身体の関係性、脳内の報酬機構などが比較的わかりやすく語られる。こういった内容の本が新書として出版されるのは社会貢献の観点からもとても喜ばしい。さすが、ブルーバックス。
この…本で共有されている意識に関する知見として大きなものを二つ挙げるとすると、次の内容を挙げることができるかもしれない:
・「意識」はすでに自律的に起こった情動などの意識下の反応を、脳が認知して解釈したものである。したがって意識の情動に対する優位性は否定される。
・精神は、脳を含む進化論的な発展を基盤としている。
なお著者は、感情と情動を明確に区別をした上で包括的な理解をしているので注意が必要である。著者の感情と情動の区別はアントニオ・ダマシオに由来しているので、正確に理解するためにはダマシオの著作も読んだ方がよいだろう。
著者によると、「こころ」は脳単独で生まれるものではなく、感覚系や神経系、内分泌系を通して全身の各器官に影響を及ぼし、それらの器官からフィードバックを受けた上で全体として生成されるものである。この辺りの論は、先に挙げたダマシオの論に沿ったものである。その流れに乗る形で、著者は意識に対する「こころ」の優位性をその理解の前提としておくのである。特に情動の成立には情動を引き起こす事象の認知のみでなく、それに伴う身体反応が必要であるとするのである。
言うまでもなく、深く考えれば考えるほど、いわゆる「こころ」の定義は難しい。ここで著者は狭い意味で「こころ」を情動と捉えて定義するのではなく、その範囲を広げて、次のように書く。
「「こころ」には、情動以外にも、報酬を得ようとする欲求、困難を成し遂げようとする意志力、他人に共感する力、社会で適切な役割を果たす力などが含まれている」
「「こころ」は脳深部のシステムの活動、いくつかの脳内物質のバランス、そして大脳辺縁系がもととなる自律神経系と内分泌系の動きがもたらす全身の変化が核となってつくられている。また、他者の精神状態は表情を含むコミュニケーションによって共感され、自らの内的状態に影響する。そして最終的には、前頭前野を含む大脳皮質がそれらを認知することによって、主観的な「こころ」というものが生まれるのである」
さらにそもそも人間が「こころ」を獲得した経緯について、「こころ」は進化論の求めるところにより、個体の生存確率を高めることによって獲得されたという理解が前提とされる。また人間の情動は、一般にそう思われている以上に身体的なものであり、生物的なものである。いずれにせよ、「こころ」が生物の一機能である以上、進化論的な議論を避けて済ますことはできない。その意味でも、「こころ」の議論において、「記憶」という機能も生存確率に影響するという観点からも興味深く、この本でも取り上げられるべき重要な要素である。「エピソード記憶」、「意味記憶」からなる陳述記憶と「手続き記憶」、「情動記憶」からなる非陳述記憶、また一時的記憶領域である「作業記憶」に大きく分類される。これらと海馬や偏桃体などの大脳辺縁系の役割についても比較的詳しく説明される。また、ドーパミンなど報酬系の脳内での仕組みも、その進化論上の観点含めて「こころ」を理解する上で重要である。
そして進化論が教えるところによると、「実は「こころ」はいまもなお進化し続けている」のである。
「「こころ」とは、行動選択のためのメカニズムである。そして「こころ」には、学習機能が備わっている。それゆえに「こころ」は、社会の変化に伴いこれからも変化していくのだ」
インターネットによるコミュニケーションの変容や、報酬系に与える変化はおそらくは「こころ」に対する環境の変化として働き、実際の「こころ」の動きに対してときに想定を超える影響を与える。
各章の最後にまとめが書かれているのも理解をよく助ける。佳作。続きを読む投稿日:2019.06.09
このレビューはネタバレを含みます
脳地図や伝達系のよくわからない名前はたくさん出てきましたが、そこはそれなりに流して読了。
レビューの続きを読む
こころってどこにあるのか。
普通に考えたら脳だろうけど、でもこころが痛む時って、心臓の付近が痛いと私は感じる…。
情動はこころで感じる感情のきっかけになるもの。
五感から得た情報は大脳辺縁系を介して、意識下で自動的に情動をもたらす。
脳内の状態に変化を与えると共に、自律神経系や内分泌系を使って全身の情報を変化させる。
それを自我や意識の首座である大脳皮質の前頭前野が認知することによって、こころという機能は完成する。
つまり、身体全体が著者の考えるこころなのだといってもいいのだろう。
喜怒哀楽のない人生はつまらないことは、分かる。
できれば楽しいこと、嬉しいことだけで構成されていて欲しいけれど、痛みが生体防御機能として重要であるのと同様に、危険や失敗を避けるため、繰り返さないために重要なのだという。
そして報酬系についての話は、本当に恐怖でしかない。
報酬に囚われて、他の全てがどうでも良くなってしまうって怖すぎる。
思い通りにいかない状態…自己とは何かみたいな所に最終的に行きつきそう。
もうそれは科学じゃなく倫理の世界。
そういえば「分類」についても極めていくと倫理と繋がっていた。
そもそも自己という存在からしか世界を見ることができないのだから、想像することしかできなくて、さらにそれを確かめる術さえない。。
生きることは死ぬまでの暇つぶしだ、とかいうけれど確かに一理あるのかも知れない。
モノアミン類は気分に関係する物質でGPCRに作用するらしい。
って?聞いたことある!って調べたらGタンパク質共役型受容体って懐かしい。
昔そんな関係の事調べてた‼︎もう忘れたけどw
モノアミン類のレベルがチューニングされることによって、気分を大幅に変動させることができるらしい。
受容体一つで一夫一婦制になって子育てするようになるとか、なんていうか(頑張れ語彙力‼︎)…そんな簡単な(簡単じゃないけど)機構なのかと結構ショックでした。
一つの受容体のあるなしで、性質がごろっと変わってしまう恐ろしさと同時にうまいことできてるよなぁと感心します。
本書でもヘビが恐怖の対象として何度も出てきました。
昔々にヘビとの間で一体何があったんだ⁉︎
知りたくなりまする。
備忘録
モノアミン系(カルボキシル基の取れた形)
ノルアドレナリンのレベルが上がれば興奮状態になり、緊張する。
ドーパミンは興奮を緩め、動きを大きくする。
セロトニンは調整役として働き、適切な状態にとどめる役割をしている。
1番嬉しいのは、最初の嬉しい瞬間。続きを読む投稿日:2023.02.11
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