ゾウの時間 ネズミの時間 サイズの生物学
本川達雄(著)
/中公新書
作品情報
動物のサイズが違うと機敏さが違い、寿命が違い、総じて時間の流れる速さが違ってくる。行動圏も生息密度も、サイズと一定の関係がある。ところが一生の間に心臓が打つ総数や体重あたりの総エネルギー使用量は、サイズによらず同じなのである。本書はサイズからの発想によって動物のデザインを発見し、その動物のよって立つ論理を人間に理解可能なものにする新しい生物学入門書であり、かつ人類の将来に貴重なヒントを提供する。
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商品情報
- シリーズ
- ゾウの時間 ネズミの時間 サイズの生物学
- 著者
- 本川達雄
- 出版社
- 中央公論新社
- 掲載誌・レーベル
- 中公新書
- 書籍発売日
- 1992.08.25
- Reader Store発売日
- 2014.12.21
- ファイルサイズ
- 6.9MB
- ページ数
- 230ページ
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この作品のレビュー
平均 3.8 (236件のレビュー)
-
【感想】
ネズミであっても、ゾウであっても、人間であっても、どんな動物でも一生のうちに心臓が打つ回数は8億回前後だと言われている。体が小さい動物ほど、体重当たりの代謝量が多いため、脈拍が早い。そのため…寿命と体の大きさはほぼ比例する傾向にある。
2つの関係性を計算すると、生物にまつわる「時間」は体重の1/4乗に比例することが分かっている。これを「生理的時間」という。
本書では、「身体のサイズ」が生物のあらゆる行動原理を決めていると仮定し、多くの項目を検証しながら動物それぞれの「世界観」を考察している。
例えば、食べる食事の量も体重によって決まる。身体が大きければ食べる量も多いのは当たり前だが、体重の増加分ほどに餌の量は増えない。そのため、1トンのゾウ1頭と1グラムのイナゴ100万匹では、後者の方が圧倒的に草を食べる量が多く、従って個体数の増大も早い。また、生活圏の広さも身体の大きさに比例しているという。一般的に身体が小さいほど移動距離が短くなるため生活圏が狭い。例外は人間であり、毎朝通勤電車に揺られて移動する距離を生活圏とみなして、それを体重ベースに逆算すると、4トンの動物と同じだけの生活圏を有しているという。
では本題の、「なぜ時間が体重の1/4乗に比例するのか」という謎については、実は解明されていないままだ。一応、「動物の身体はバネのような弾性相似である」と仮定した上で証明を行ったケースが挙げられているが、鳥類や他の哺乳類では仮定が成り立たないとしてお蔵入りとなっている。
そもそもの話になるが、動物の寿命を測定するのは結構難しい。野生下では寿命が尽きる前に餓死か捕食かケガで死んでしまうし、飼育下では野生下と比べて寿命が全く異なる。
また、身体が小さい=寿命が短いという仮定への例外が多過ぎる。短命と言われるネズミだが、ネズミの中でもハダカデバネズミは30年近く生きる。大型動物と同じぐらいの寿命だ。これは同種の動物を比べても同じであり、人間で言えば、その人が暮らす環境や生活様式によって寿命には1~2割程度のブレが出る。要するに個体差が激しすぎるのだ。
結局のところ、「寿命」という概念はあまりに他の要因が絡み合いすぎて、一律に論じきれるものではないというものがあるだろう。ただ、大きな生物ほど長く生きるというのは、何となく我々の想像に合っているのは間違いない。このことを念頭に置きながら、各動物の世界観を想像してみるとちょうどいいのかもしれない。
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【まとめ】
1 時間は生き物の大きさによって変わる
生物にまつわる「時間」は体重の1/4乗に比例する。
大きな動物ほど、寿命や大人のサイズに成長するまでの時間が長くなる。また、息をする時間や心臓が打つ間隔、血が体内を一巡する時間も、体重の1/4乗に比例する。
また、体積に関係するものは体重に正比例し、体積変化率(単位時間内にどれだけ体積が変化するか)は「体積÷時間」で求められ、体重の3/4乗に比例する。
ゾウにはゾウの時間、ネズミにはネズミの時間があり、生物におけるこのような時間の概念を、物理的な時間と区別して、生理的時間と呼ぶ。
動物のサイズは、動物の生き方に大きな影響を与えていると言えるだろう。
2 サイズと進化
サイズが大きいということは、一般的にいって余裕があるということだ。サイズが大きくなればなるほど、体積あたりの表面積は小さくなる。体温が逃げにくくなるし、体内の水分も蒸発しにくい。また、体重あたりのエネルギー消費量はサイズの大きいものほど少なくなるので、より長期間の飢餓にも耐えられる。
一方、小さいものの利点は小回りが効いて省エネなところだ。小さいものは個体数が多いため、種全体で見れば、生存競争に残る確率はサイズが大きいものと同じになる。環境が厳しくなれば、突然変異による新しい種が生まれやすいのも小さい種の特徴だ。
また、大きいものは体温を維持するために常に大量のエネルギーを使い続けなければならない。サイズが小さい変温動物は、冬眠時には体温を下げて省エネに徹することができる。
一般的に、島などの閉ざされた環境にいると、サイズが大きいものは小さく進化していき、サイズが小さいものは(捕食者の減少により)大きくなる。これを「島の規則」という。
3 代謝量
標準代謝量は、恒温動物であれ変温動物であれ、多細胞であれ単細胞であれ、みな体重の3/4乗に比例する。
摂取する食物の量を観察してみると、恒温動物ははなはだ効率が悪い。摂取したエネルギーのうち、成長にまわるのはほんの2.5%ほどであり、あとの残りは維持費(呼吸と排泄)に回される。一方、変温動物ではその30%が成長に当てられている。小さい動物のほうが、大きい動物よりも体重あたりの餌の摂取量が大きくなるため、小さい変温動物は大量の餌を消費し、どんどん増えていく。
移動運動の種類別の使用エネルギーを計算してみると、走ることが圧倒的にエネルギーを食い、体重が大きくなるごとに必要エネルギーが大きくなっていく。
その次は飛行である。飛ぶこと自体は走ることよりもエネルギーを食うが、速度が速いため、距離あたりのエネルギーでは走るよりも効率がいい。移動時間あたりでは走るほうが省エネだ。飛行も体重が増えるごとに必要エネルギーが大きくなる。
一方、泳ぐことは体重にかかわらず消費量が一定だ。ライオンやチーターといった陸上の大型動物が常に休んでいるのに対して、アシカやイルカといった水中の大型動物がくるくると泳ぎ回っているのは、移動運動にあまりエネルギーを使わないからだ。
4 器官のサイズ
脳のサイズは、成長の早い段階で発育しきってしまう。その後は体が大きくなっていっても、脳のサイズはあまり変わらない。脳のサイズは体重のほぼ3/4乗に比例すると言われている。
一方、骨格系の重量は、体重の1.09倍に比例して大きくなっていく。体重が増えるほどそれを支える骨が太くならなければいけないので当然のことだが、かといって、体重の大きい動物が骨だらけというわけではない。内臓が入るスペースを確保するため、ある程度強度を犠牲にしなければならないからだ。
一般的に、身体の小さい動物ほど衝撃への圧力に強く、大きい動物ほど弱い。ネズミがビルの上から落ちてもピンピンしているのに対し、ゾウはジャンプしただけで骨折するのはこれが理由だ。
5 動物の世界観
動物が変われば時間も変わるということは、おのおのの動物は、それぞれに違った世界観を持っているということだ。動物の生活のしかたや体のつくりの中に、世界観がしがみついており、それを解読して、人間に納得のいくように説明する、それが動物学者の仕事である。続きを読む投稿日:2021.12.12
体のサイズや形態から、その生き物の時間、あり方を考えると、サイズ対比ではどんな生き物にも概ね同じ法則が当てはまるというのは、とても興味深いこと。進化はやはり奥が深い。この法則に基づいてヒトやその技術を…相対化すると、自然の道から外れてるなぁ、と思う。続きを読む
投稿日:2024.04.08
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