NHK「100分de名著」ブックス 宮沢賢治 銀河鉄道の夜
ロジャー・パルバース(著)
/NHK出版
作品情報
色褪せることのない宮沢賢治の作品世界の中でも、とりわけ私たちを魅了し続ける『銀河鉄道の夜』。「永遠の未完」と言われる本作は、生者も死者も等価に描きだし、独自の自然観と未来観を表現した。東北が生んだ稀代の夢想作家が、その生涯を賭して伝えたかったことを辿る。
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この作品のレビュー
平均 4.1 (9件のレビュー)
-
数ページ読んだところで早くも収穫が。
賢治の作品の多くに見られる自己犠牲の精神。
どうしてここまで強く…と思っていたのだが、「これには彼の実家が「質屋」を生業としていたことに深い関係があると言われてい…ます。」
とあり、
「自分を犠牲にしてでも、誰かを救わなくてはならない」と、「罪悪感」を抱いていたと著者は言う。
そして質屋を営み、熱心な浄土真宗の信徒であった父との確執。(賢治は日蓮宗)
「彼の作品はすべて、こうした使命感をもとに書かれたものと考えていいでしょう。」
「賢治にとっては生きること自体が贖罪だったのです。」
とは著者の言葉だ。
賢治本人も農民たちを指導する際(農民芸術概論綱要にて)、
「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」
という文章を残しているそう。
『銀河鉄道の夜』は、"大切な人の死"という悲しみだけでなく、「悲しみの乗り越え方や、その先の明日へと歩みを進めるためのヒントが書かれている」と著者は述べている。
著者の、
「だから悲しみに飲み込まれてしまわないための舞台として、賢治が宇宙を選んだ気持ちが僕にはなんとなく分かるのです。」
との言葉が印象的だった。
ここで本書は『永訣の朝』にも触れているが、私が受けた印象とは違う考えが述べられていた。
「あめゆじゆとてちてけんじや」とは、トシが、「白くて美しい雪を見れば、別れを悲しむ兄の気持ちも少しは癒えるのでは…」と考えて賢治に頼んだというのだ。
う~ん。。。そうだろうか。
普通の兄妹以上に精神的な強い結び付きにあったと思われる二人だけれど、まさに命が尽きようとしているこの時に、そこまで美談のような余裕が生まれるだろうか。
私はトシが、心の底から、白く冷たい雪を手にしたかったのではないかと思えてならない。
雪や霙は手にすると溶けてしまうけれど、叶わぬ望みと知りながらも、溶けないまま手にしたかったのではないだろうか…と思えてならないのだ。
さて、『銀河鉄道の夜』。
今のところ私は、ジョバンニを通して賢治自身が妹トシの死を乗り越えようとしているように思える。
いや、逆かな?
本書の「賢治とトシの年表」によると、トシを失ってから約2年ほど経ったのちに執筆を開始しているので、
賢治がトシの死を乗り越えながら感じたことを、ジョバンニになぞらせているのだろう。
ジョバンニはある意味、賢治の分身だ。
パーソナルな悲しみであったトシの死は『銀河鉄道の夜』という作品に昇華され、大切な人を失った悲しみとして全人類が共有できる感情となった。
『銀河鉄道の夜』は、死をどのように受け入れたら良いか、どのように生きるべきか、宗教的な教えを含みながら説いている。
本書でも「善い行ないとは何か」という視点で、「…自分は助からずとも、預かった子供たちだけでもなんとか救いたい」という沈没事故に遭遇した青年の言葉や、少女が語る蠍座誕生のエピソードなどをあげている。
そしてジョバンニの台詞だ。
「どこまでもどこまでも一緒に行こう。僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸のためならば僕のからだなんか百ぺんやいてもかまわない」
著者はこの台詞を、トシを失った賢治の言葉として捉えている。
"トシの魂と一緒に、どこまでも、自分が正しいと思う道を歩んでいこう"
そして著者は、カンパネルラが助けたのがジョバンニを苛めるザネリであったことにも触れている。
「好き嫌い、善悪に関係なく、すべての人に分け隔てなく愛と慈愛を注ぐことこそ、本当の正しい生き方であるーーー。…………賢治はそう言いたかったのでしょう。」
著者は、賢治の自然との関わり方についても触れている。
「……自ら野や山に分け入って能動的に自然と関わろうとしている。そして自分の目で見て、肌で感じた自然を、まるで手帳に書き留めるように作品に描き出しています。」
「賢治は、自分(人間)という存在は、自然界を形づくっている分子のひとつであり、宇宙をも含めたこの世の森羅万象は、自分と常に一心同体であると考えていました。」
ああ、その通りだと思った。
本書でも触れていたが、『春と修羅』の冒頭、
「わたくしといふ現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)」
に如実に現れている。
そして、
「(ひかりはたもち その電燈は失はれ)」
この一文を著者は、
「電燈(肉体)は滅びても、ひかり(魂)は残ることを表しているといわれています。」
と解説する。
なるほど。
『春と修羅』に強く心惹かれてコピーして持ち歩いているが、ぼんやりと理解したつもりになっていた事柄を、改めてしっかり掴んだ気がした。
「人間は自然の分子のひとつであり、すべての分子は時間軸を超えて、永遠に互いにつながっている。だから、自分の行ないはすべてが巡りめぐって、いつか自分の身に降り掛かってくる」
著者は、賢治の真似はできないが、そこで「自分は無力だ」と諦めずに、世界を自分なりに捉え、自分にできることは何かと問い、行動に移していくことこそが、賢治からのメッセージではないかと結ぶ。
巻末には100分de名著の番組内での対話(著者のロジャー・パルバースさん✕京都大学こころの未来研究センター教授である鎌田東二さん)が収められていた。
鎌田さんのお話で印象的だった箇所は、
「「なにがしあわせかわからないです」という台詞がありますね。「ほんとうの幸い」というのは、宮沢賢治のほかの作品にもありますが、それを求めていく過程に答えがある、ということだと思います。」
「過程そのものが、幸せの答えでもある。だから、幸せとは何か、という「問いかけ」の先に「答え」があって、それをつかむのではなく、「問いかけ」ていくその行為自体の中に答えが存在している、「問いかけ」と「答え」の両方が同時に相互的・相関的に実現している、というのが宮沢賢治の実感なのだと思います。」
だとしたらこうして私が本書を読みながら「ほんとうの幸」について思い巡らせている行為も、上記における「過程そのもの」に他ならない訳で、本書を読みながら心が満たされていくのを感じた。
100分de名著ならではの資料が嬉しかった。
①賢治が生きた時代の花巻
②宮沢家系図
③銀河鉄道の路線図
④賢治とトシの年表
⑤賢治のフィールドと題した地図
⑥『銀河鉄道の夜』の推敲過程
⑦『農民芸術概論綱要』序論
これらを読む(あるいは見る)ことが出来たことも収穫であり、作品をより深く味わうことが出来た。
今年の読み始めは100分de名著となりました。
ブクログを始めて皆さんのレビューを拝読し、自分なりにより深く掘り下げたい、沢山の作品と出会いたい、という気持ちは強まる一方です。
今年も、皆さんのレビューから色々な事を吸収していきたいと思います。
マイペースな私ですが、どうぞ宜しくお願いします♪続きを読む投稿日:2024.01.04
「銀河鉄道の夜」は大人になって読み直して漫画やアニメで新たに触れて、奥深さに感じ入った。
この本は題名から手に取ったのだが思いがけず宮沢賢治その人を新たに知るための格好の入門と言えるのではないだろうか…。続きを読む投稿日:2024.05.15
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