原発事故を問う―チェルノブイリから、もんじゅへ―
七沢潔(著)
/岩波新書
この作品のレビュー
平均 5.0 (6件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
1996年刊行。著者はNHK教養番組部ディレクター。タイトルにはもんじゅも含まれるが、本書は、主にチェルノブイリ原発事故の原因、事故後の経緯、放射線被爆の影響、これら検証過程等を追跡取材したもの。正直、チェルノブイリ原発の制御棒の特殊性に関する技術面の解説を理解したとは言い難く、畢竟、事故原因の解説も同様。が、事故の実態が、小規模ながらも核兵器の爆発と同様の構造を持ち、核兵器と原発との垣根の議論は無意味な点、事故原因に関する米ソ大国間の情報収集の在り様、IAEAの強い政治色と大国に翻弄される姿は印象的。
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フクシマ前でも、探せばいくらでも出てきたであろう原発問題関連書。我が身の不明を恥じるばかり…。投稿日:2017.01.23
(2014.03.31読了)(2011.12.11購入)
【東日本大震災】
副題「-チェルノブイリから,もんじゅへ-」
読んでみて、もっと早く読むべきだったなあ、と思いつつも、福島原発事故がなかったら…読む気にはならなかったろうとも思う。
原子力発電は、電力の確保の問題でもあるけど、原爆の原料作成の問題でもあるので、経済・政治・科学・技術、さらには健康の問題、人類の未来にかかわる問題でもあるので、なかなか簡単にはいかない。
原発の燃料になる核燃料は、生命体の毒になる放射能を放出しているし、無害になるまでに、何万年もかかるというもので、簡単に無害化する技術がない。
そんなものは、早くやめてしまえということなのですが、防衛問題が絡んできたり、工業製品製造のための安い電力の確保なども絡んでくるのでなかなかすんなりとはいかない。
チェルノブイリの事故が起こったのは、1986年4月26日ということですので、この本が出版される10年前です。事故が起こったときは、ソ連がまだ存在していたときなので、事故の真相はよくわからないままでした。その後、ソ連が解体し、チェルノブイリは、ウクライナ共和国に属しています。チェルノブイリの事故後、10年間、著者は、この事故のことを機会あるごとに追い続けて来たようです。その中で、事故の関係者などにもインタビューしたりして、真相に迫るための取材を続けて来たようです。その成果をまとめたのがこの本です。2011年3月11日以後の福島原発事故に際しては、「ホットスポット」という番組を制作し、まとめています。
事故原因は、当初、運転作業員のルール違反によるものという発表だったようですが、実際は、原発の設計上の欠陥だった、ということです。設計上の欠陥であることを認めると、すでに稼働している同じ設計の原発すべての改良工事をしないといけなくなるので、経済的負担が大きくなるという理由で、運転作業員を悪者にして、逃れたということです。
原発事故では、どこでも、住民への健康被害をできるだけ少なくしようという方向より、事故をできるだけかくして、被害を恐れて逃げ出そうとする人たちを少なくしようという方向に向かうようです。チェルノブイリの原発事故でも、原発近くの住民をすばやく安全な場所に移動させるのではなく、危険な場所に長くとどめたようです。
人口の多いキエフの住民にも、メーデー過ぎまでは、事故のことは知らせない、という方針だったようです。
事故が覆った場所では、発生した火災の消火作業や放射性物質の拡散を防ぐための作業に多くの人たちが携わり、高濃度の放射線にさらされたために死亡したり、後遺症に悩まされている人たちがたくさんいるようです。
放射能に汚染された地域が広大にあるため、汚染された地域に住み続けている人たちもいるとか。福島でも、一部帰還が始まったようです。チェルノブイリに比べれば、汚染度はかなり低いとは思うのですが、子どもたちは住ませたくないというのは、わかる気がします。
【目次】
序章 もんじゅとチェルノブイリ
第一章 「パニックを回避せよ」 チェルノブイリ・事故と政治①
一 はがされた機密のベール
二 「ありえない事故」の呪縛―運転員たちが語る「その時」
三 遅れた避難―プリピチャ市民・四万五千人
四 キエフの長い二十日間
第二章 隠された事故原因 チェルノブイリ・事故と政治②
一 運転員たちの汚名
二 〈原子炉の欠陥〉は、こうして隠された
三 国際検討会議の舞台裏
第三章 世界は事故をどう受け止めたか
一 原発見直しの波
二 脱原発への挑戦―スウェーデン
三 「推進」からの「撤退」―ドイツ
四 「もんじゅ」の国―日本
第四章 〈チェルノブイリ〉は終わっていない
一 汚染地帯に生きる
二 「グレーゾーン」の憂欝―事故処理作業者六十万人のその後
三 原子炉の骸のなかから
あとがき
●チェルノブイリ原発(54頁)
あの原発はウクライナの独立まではソ連政府の電力電化省の管轄下にあったのです。それゆえ、事故後の処理も、ルイシコフ・ソ連首相の緊急対策会議およびソ連政府事故調査委員会からの情報と命令で動いていたのです。どんなことでも、ウクライナ独自で決めることはできませんでした。必ずモスクワに相談しなければなりません。
●経済的要因(73頁)
わが国(ソ連)に限らず、日本でもイギリスでも、アメリカでも、非常事態が起ったら、普段のレベルよりも高い基準が導入されるようになっています。これは仕方ないことだと思います。たとえば、キエフ市民三百万人が本当に疎開するとなったらどれだけの社会費用がかかることでしょう。もちろん被爆による健康上のリスクは生じますが、それと、この社会的費用とを秤にかけて考えなければならないのです。
●事故原因は、原子炉の欠陥(110頁)
設計に携わった人々は、原子炉の欠陥を認めたら全部改善しなければならず、そんな面倒で金もかかることをやりたくないと思っていたんです。
●残った原子炉(157頁)
今、チェルノブイリ原子力発電所を訪ねると、まず驚くことは原子炉が稼働していること、そして人々が大勢働いていることである。「石棺」と化した四号炉と、九一年に火災を起して停止した二号炉を除いて、一号炉、三号炉が発電を続けているのである。
●原子力のもつ三つの危険性(193頁)
第一に、原子力システムには絶対的な安全性が確立されていないこと。そして万が一の大惨事が起きた場合、膨大な数の人命が脅かされ、居住不可能の土地が生まれ、またはっきりとした影響も定かでない遺伝的影響があらわれてしまいます。
第二に、放射性廃棄物の処分法が確立されていないこと。今後何千年も確実に安全に保管しなければならないという課題が、いかに困難であるかは、キリスト生誕以来二千年の人類史が教えてくれます。
第三に、原子力の軍事利用と民生利用をはっきり区別することの困難さです。民生利用という迂回路をとって核兵器を調達したインドやパキスタンがいい例です。
●原発の優等生(205頁)
いまや原発の安全管理と技術において日本は本家本元のアメリカをも凌ぐ世界の優等生である
●世界第三位(205頁)
チェルノブイリ事故ののち、日本で運転が開始された新しい原子炉は十六基。その数は世界で群を抜いている。1996年3月現在、運転中の原子炉は全国で五十基。さらに三基(もんじゅを除く)が建設中で、二基が建設準備中である。原発の発電規模はアメリカ、フランスについで世界第三位に上り、総電力の三一パーセントを生産している。
●事故処理作業者(247頁)
ロシア国防相の機関紙『赤い星』が事故から八年目の九四年四月に報じた記事によれば、ロシア人の事故処理作業者三十万人のうち、三万人が身体障害者となり、すでに五千人以上が死亡したという。
●黒鉛除去作戦(258頁)
当初、この作業はあまりに危険であると考えられ、西ドイツ製のリモート・コントロールのロボットを使って無人で行うはずだった。しかしロボットは、強い放射能の影響で、電気系統の故障があい次ぎ、動かなくなってしまった。そこでやむをえず、人海戦術によって黒鉛を除去する作戦が立てられたのである。
●核燃料は外へ(266頁)
八六年に公表されたソ連政府報告書では、核燃料の九六パーセントが、この炉心室に残っていることになっていた。しかし、マイクロカメラが映し出す炉心室には、核燃料はまったく残されていなかった。チェチェロフ主任は、調査の結果、ほとんどの核燃料は事故によって炉心室から外に放出されていたことを確信したという。
☆関連図書(既読)
「恐怖の2時間18分」柳田邦男著、文春文庫、1986.05.25
「食卓にあがった死の灰」高木仁三郎・渡辺美紀子著、講談社現代新書、1990.02.20
「チェルノブイリの少年たち」広瀬隆著、新潮文庫、1990.03.25
「チェルノブイリ報告」広河隆一著、岩波新書、1991.04.19
「ぼくとチェルノブイリのこどもたちの5年間」菅谷昭著、ポプラ社、2001.05.
「福島原発メルトダウン-FUKUSHIMA-」広瀬隆著、朝日新書、2011.05.30
「原発の闇を暴く」広瀬隆・明石昇二郎著、集英社新書、2011.07.20
「ホットスポット」ETV特集取材班、講談社、2012.02.13
(2014年4月23日・記)
(「BOOK」データベースより)amazon
事故の影響も原因究明も―チェルノブイリは終わっていない。原発作業員からゴルバチョフまで多数の証言と、膨大な内部資料をもとに、新事実を発掘。さらに、ソ連一国を越える「真相を隠す側」の巨大な構図を追及。ソ連の原発政策と情報操作の結末と、スウェーデンやドイツの試行錯誤を前に、「もんじゅ」の国がえらびとるべき道を問う。続きを読む投稿日:2014.04.23
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