弓ム日月さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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アイの物語
山本弘 / 角川文庫
変わった構成。
5
読み始めは劇中劇のような感じ。登場人物や背景が異なった内容でテーマはそれぞれ違うように見えるが実は同じ、インターミッションでつないで最後の物語で統合するという、プラモデルみたいな作りの小説だ。
それ…ぞれが短編小説と言ってもいいくらいにまとまっており、読後感もよい。典型的なSF小説の範疇に収まる作りだが、しかもそれらが全て最終話に入り込んでくるところが秀逸。最終的に誰も不幸にならないところも素晴らしい。
老後はぜひ詩音に介護をお願いしたい。
続きを読む投稿日:2015.04.13
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百年法 上下合本版
山田宗樹 / 角川文庫
構成の勝利
2
SFを下敷きにした国取り物語、に見せかけた命や生きることとは何かを問う話。
まるで史実に基いて話を紡いでいるような構成がすばらしい。「三国志」や「宮本武蔵」みたいな感じか。
しかも重要なエピソードをバ…ッサリ省いておいて、後から登場人物に過去の出来事のように語らせるとか、何十年も経過していて既成事実化しているとかが多くて、この世界の歴史の流れがどうなっているのかを常に意識してないと迷子になりそう。それでいてわかりにくさは一切なく、もちろん破綻もない。
登場人物は誰も魅力的であり、キャラクター付けがしっかりしているので、その数は多いが途中で『この人誰だっけ?』となることはまずない。
「ギフテッド」もそうだったけど、物理的な長さを全く感じさせない、一息で読んでしまいたくなる良作である。 続きを読む投稿日:2016.03.20
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聖者は海に還る
山田宗樹 / 幻冬舎文庫
リアリティ
1
人間の心理をコントロールすることの是非を隠れ蓑に本当の幸せとは何か、にまで踏み込んだ佳作。何も知らないほうが幸せなのか、すべてを知ることが正しいのか、答えは出ないまま物語は終局に向かう。
小説中で精神…が崩壊していく描写が数か所あるが、非常にリアルに感じる。まるで実体験を追っているかのように真に迫っている。「黒い春」でも見られたが医学分野の描写が非常に正確かつリアリティあふれるのは、取材や勉強の賜物だろうか。医学関係者として驚嘆に絶えない。
この小説でも、「百年法」でもあった『実際(文面)には登場しない人物』がキーパーソンとなっている。すでに過去の人物として描かれているがその影響力は非常に大きく、人々の人生を蹂躙していく。その人物像の描写は非常に少なく、得体の知れない人として物語の奥底にベッタリと居座るのが気持ち悪く、また謎を大きくふくらませるのに一役買っている。
読書中に映画「バタフライエフェクト」のシーンがいくつか想起されたが、エヴァンと比留間はだいぶ違うだろうなぁ(ビジュアル的に)。 続きを読む投稿日:2016.04.25
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新装版 瞬間移動死体
西澤保彦 / 講談社文庫
軽妙かつ緻密。
1
SFをトリックに組み込むときには、ともすれば何でもありの世界になってしまうのを抑えこみ、あくまで道具の一つとして利用するのがマナーであろうが、本作はそういったマナーを十分理解された上で上質のミステリ…にSFを組み込んでいる。別に理論的な説明や実証実験などはしていないが、「あぁそういうことが出来るならこういう結果になるだろう」と納得させる使い方と、何よりSF的な部分を徹底的にただの道具に落とし込んでいるのが秀逸。人物描写も親しみが湧く人ばかりで、嫌な気分にさせられないのも西澤氏の特徴か。
ただ、そういった部分に感動する以前に、「面倒を回避するためならどんな努力も厭わない」を旨とする主人公に非常な親近感を覚えてしまうのは情けないことかもしれない。 続きを読む投稿日:2016.01.01
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黒い春
山田宗樹 / 幻冬舎文庫
キャラ立ち
1
未知の病原に立ち向かう者、怯える者、そして倒れる者。それぞれのキャラクターをしっかり描き分けていて、誰だかわからなくなることがない。「百年法」も多くの登場人物を間違えることなく認識できる。山田宗樹氏の…文章は脳内ビジュアル化しやすい。ラストはちょっと不満、というか消化不良。
昔読んだ何かの書評に「良い小説は頭の中で鮮やかに映像化出来る。書中に記載がなくても登場人物の服装、癖や好み、そして利き腕さえも容易に脳内に再現される」みたいなことを書いてあったが、山田氏の文章は特にそれを感じる。従って、脳外映像化は必要ない。「ギフテッド」は逆に映像化が難しいように感じたが、山田氏の読み始めの初期だったからだろうか。 続きを読む投稿日:2016.04.12
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植物図鑑【幻冬舎文庫版】
有川浩 / 幻冬舎文庫
若いっていいね。
1
ここ数年は漫画や小説は全て電子書籍にしている。そのメリットは数多くあれど、風呂の中で読めるのが大変嬉しい。今使ってるXperia Z1fのタッチパネルが敏感すぎて水滴に反応してしまうのが玉に瑕だが、少…し小さめに音楽をかけながらぬるい湯船に浸ってゆっくり本を読むのは快適この上ない。
「三匹のおっさん ふたたび」巻末の「好きだよと言えずに初恋は、」からたどり着いた本巻、若いっていいねって感じでほとんどニヤニヤし通しの本編を満喫したあと、また巻末にやられてしまった。「カーテンコール 午後三時」。
だってちょうど最高潮のところで音楽が奥田民生カバーの「唇をかみしめて」になったりするから、いい年のおっさんがあの頃に若返って、イツキと一緒になってうるうるしてしまった。これはずるい。誰が仕込んだのか。俺の青春を返せ。 続きを読む投稿日:2015.03.15