運動の神話 上
ダニエル・E・リーバーマン(著)
,中里京子(訳)
/早川書房
作品情報
「健康のために運動する」これは現代社会がもたらした考え方であり、人類は運動するために進化してきたわけではない。それにもかかわらず現代人にとって運動が健康に役立つのはなぜか。進化生物学者が、近代人が作り上げてきた運動にまつわる神話を再検証する
もっとみる
商品情報
- シリーズ
- 運動の神話 上
- 著者
- ダニエル・E・リーバーマン, 中里京子
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 早川書房
- 書籍発売日
- 2022.09.28
- Reader Store発売日
- 2022.09.28
- ファイルサイズ
- 10MB
- ページ数
- 272ページ
- シリーズ情報
- 既刊2巻
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 3.7 (8件のレビュー)
-
【感想】
感想は下巻にまとめた。
https://booklog.jp/users/suibyoalche/archives/1/B0BDF7S2SL
【まとめ】
1 運動は万能薬ではない
私たちは…運動するように進化してきたわけではない。
今日、運動のもっとも一般的な定義は、「健康やフィットネスのための自発的な身体活動」ということになっている。だがそれは最近の現象だ。狩猟採集や農耕にいそしんでいた、さほど遠くない私たちの祖先は、十分な食料を得るために毎日何時間も体を動かさなければならなかった。
健康のために運動するという概念は現代のものである。同時に、運動とは逆説的なものだ。健康的でありながら異常に身体を消耗させ、本来無料でありながら高度に商品化され、喜びと健康の源でありながら、不快感、罪悪感、反感を抱かせる。
運動に関して私たちが抱いている信念や態度の多くは神話にすぎない。誤解のないように付け加えると、私は運動が有益でないとか、あなたがこれまでに読んできた運動に関する話がすべて間違っているとか言っているわけではない。とはいえ、現代の産業化された運動に対するアプローチは、身体活動に関する進化論的・人類学的な視点を無視あるいは誤って解釈しており、誤解、過大評価、誤った論理、散見する誤り、そして許しがたい責任転嫁により損なわれている。
最も問題なのが、「人間は運動をするために生まれてきた」「運動するのは正常なことだ」という思い込みであり、これが運動をしない人を不当に非難し、混乱や疑念を広める原因となっている。
2 私たちは運動するように進化してはいない
進化的に「正常な」人間の運動習慣についてほんとうに知りたいのであれば、現代の欧米人だけに焦点を当てるのではなく、狩猟採集民について学ぶべきだ。
狩猟採集民のハッザ族のもとに筆者が訪れて印象に残ったのは、皆が座ってばかりいたことである。ハッザ族の男女は野営地にいるときは、ほとんどの場合、地べたに座って話をしたり子供の世話をしたりしながら軽い雑用をこなしているか、ただブラブラしている。もちろん、ハッザ族の人々は、男性も女性も毎日のように狩りや食料調達のために灌木地帯に出かけてゆく。ハッザ族の平均的な成人は、1日に合計3時間40分を軽い活動に、合計2時間14分を中程度から激しい活動に費やしていた。この1日数時間の慌ただしさは、平均的な欧米人の約12倍の活動量になるものの、その労働量は、どんなに想像力をたくましくしても骨の折れる肉体労働とは言い難い。
狩猟採集民の行動こそが進化的に「正常な」のだと仮定した場合、アフリカ、アジア、アメリカ大陸の現代の採集集団を対象とした包括的な研究によると、かつての人間の典型的な労働時間は約7時間であり、その多くは軽度の活動に費やされ、活発な活動はせいぜい1時間程度だったということになる。ほとんどの狩猟採集民は適度なレベルの身体活動を行なっており、その多くは座ったままで行なわれている。
人々のエネルギー消費量を測定する指標である「身体活動レベル(PAL)」を用いた研究では、狩猟採集民のPALは男性平均1.9、女性平均1.8で、先進国の工場労働者や農民のPAL (1.8) とほぼ同じで、先進国のデスクワークの人々のPAL(1.6)より約15%高いことが分かった。言い換えれば、ほとんど運動をしない一般の人でも、1日1~2時間歩くだけで、狩猟採集民と同じくらいの身体活動ができることになるのだ。
3 怠惰に過ごすのは不自然か?
人間と同じ類人猿のゴリラが1日に移動する距離は、わずか1.6キロ程度にすぎない。チンパンジーの歩行距離も3〜5キロほどだ。人間は、仲間と比べてもはるかに多くのエネルギーを獲得して消費するよう進化した。
人が「安静」でいるためにはかなりコストがかかる。体重が82キロの男性の場合、安静でいるだけで1日約1700キロカロリーを消費する。活動的なひとでもインドアな人でも狩猟採集民でも、除脂肪体重1キログラムあたり毎日約30キロカロリーを消費している。一言でいうと、活動的な人でも、体を動かすよりも体を維持することにより多くのエネルギーを使っているのだ。
カロリーを消費する方法は5つしかない。体を成長させる、体を維持する、エネルギーを脂肪として蓄積する、体を動かす、繁殖する、だ。人類はこの5つの消費行動を前提に、より繁殖成功度が高くなるよう遺伝子を進化させてきた。自然選択の観点からすると、カロリーが限られている場合、必要のない身体活動から、繁殖またはその成功を最大化する機能にエネルギーを振り向けることは、たとえそのトレードオフにより健康が害されたり寿命が縮まったりするとしても、常に理にかなうことなのだ。
つまり一言で言えば、私たちは極力体を動かさないように進化してきたわけだ。より正確に言うと、私たちの体は、身体活動を含む非生産的な機能に対して、エネルギーを十分にではあるが過度には振り向けないように選択されてきたのである。貴重なエネルギーを、自由裁量である「運動」に浪費しないよう慎重になることは理にかなっているのだ。
4 座ることは不健康ではない
当然だが、座っている方が立っているよりも疲れにくく、よりエネルギーを消費しない。
平均的なアメリカ人が座って過ごしている時間は目覚めている時間の55〜75%を占める。睡眠時間を考慮すれば、1日9〜13時間ほどは体を動かさずに過ごしている。1965年から2009年の間に、アメリカ人が座って過ごす時間は43%増加したとの研究がある。
長時間座ったままでいることが健康に及ぼすと危惧されている影響は、大きく分けて三つある。まず一つ目は、座っているがために、やらないことが問題だ。つまり、椅子に座って快適に過ごす1時間は、運動やほかの何かを積極的に行なっていない1時間なのである。二つ目は、長時間座りっぱなしでいると、血液中の糖や脂肪が増えて、体に害を与えることだ。そして三つ目の、最も懸念される影響は、何時間も座り続けると、「炎症」として知られるプロセスにより、免疫系が体を攻撃しかねないことである。
大部分の脂肪は健康的なものだが、内臓脂肪細胞が膨張すると、炎症を誘発する大量のタンパク質が血液中に滲み出してくる。長時間座り続けることは活動不足を招き、血液中の脂肪や糖を細胞に蓄えてしまう。また、長時間座ったままだと筋肉の活動が停止したままになり、慢性炎症が引き起こされる可能性がある。
実のところ、脂肪細胞の肥大化、血液中の過剰な脂肪や糖、ストレス、そして不活発な筋肉という炎症を引き起こすメカニズムは、いずれも座ること自体が原因なのではない。むしろ、体を十分に動かさないことが原因なのである。だが通常それは、座っている時間が長いことを意味するため、両者が関連付けて語られるのは避けられない。
残念なことに、週に7時間以上の中強度または激しい運動をしている人でも、それ以外のときに座っていることが多いと、心血管疾患で死亡するリスクが50%高くなっていることが分かっている。座り過ぎはジム通いを打ち消すのだ。
では、良い座り方はなにか?コツは定期的に立ち上がることだ。30分に1回、ほんの短時間だけでも座りっぱなしを中断するだけで、糖、脂肪、悪玉コレステロールの血中濃度が低下する。座りながらもぞもぞ動くのもよく、たまに立ち上がってストレッチするのはかなり効果的だ。
注意点は、座るに比べて「立つ」のが健康とは言えないことだ。立つことは運動ではないし、立ち机に大きな健康的メリットがあるとお墨付きを与える研究は存在しない。さらに、12時間以上座っている人は、座っていない人に比べて死亡率が高い傾向にあることは多くの疫学調査で明らかになっているものの、仕事で座る時間(職業的座位行動)が長い人の死亡率が高いことを示す前向き研究はまだ行なわれていないことにも注意が必要だ。つまり、座っていることに関する恐ろしい統計は、仕事中ではなく余暇時間における座り方に基づくものなのだ。続きを読む投稿日:2023.09.12
動物は無駄なエネルギーを保持しておくことを最善策として取るのに、人間はなぜエネルギーを意図的に消費する(無駄な)運動をするのか?との着眼点から話が進んでいく興味深い内容。
投稿日:2024.02.17
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。