ボマーマフィアと東京大空襲~精密爆撃の理想はなぜ潰えたか~
マルコム・グラッドウェル(著)
,櫻井祐子(訳)
/光文社
作品情報
一晩で10万人以上の命を奪った東京大空襲は、いかにして現実のものとなったのか。精密爆撃のための照準器を発明した天才オランダ人、市街地爆撃に罪悪感を感じないイギリスの司令官。ナパームを生み出したハーバード大の化学者。そして航空機に戦争の未来を夢想した「ボマー(爆撃機)マフィア」こと米陸軍航空隊戦術学校のリーダーたち――それぞれの思惑を通して空前の殺戮の裏側を描くノンフィクション。
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商品情報
- 著者
- マルコム・グラッドウェル, 櫻井祐子
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 光文社
- 書籍発売日
- 2022.05.30
- Reader Store発売日
- 2022.05.21
- ファイルサイズ
- 6.4MB
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この作品のレビュー
平均 3.6 (9件のレビュー)
-
爆撃の精度を上げれば人命を救える
マルコム・グラッドウェルといったら、学術的な知見を噛み砕き、当たり前のことから面白い洞察を引き出す希代のストーリーテラーだ。
そんな著者が本書で「東京大空襲と戦略爆撃」をテーマに取り上げるというのが…意外だった。
もはや語り尽くされた感のあるこのテーマに、読者を驚かせるような新たな発見があるのか?
結果は、"おぉ"と唸らされる部分と、"何だそれ?"と残念な部分があって、相半ばといった感じ。
あとがきにもあるが、海外のレビューも著者の作品にしては批判の声が目立つ。
まず、あまりに不正確な記述が多いという声。
日本語版ではそうではなかったが、原書の初版では広島・長崎への原爆投下が両方ともエノラ・ゲイからなされたと記述されていたりと編集者がいれば当然気づくレベルの間違い。
というか本書がPodcastという特殊な形態で作られているため編集者自体が不在なのではという声もある。
「著者の他の作品と同様に、本作もページを繰る手が止まらないのだが、これも他の作品同様、正確さに関して問題がある」
失敗に終わったハンセルのドイツのボールベアリング工場への精密攻撃も、あと数回で致命的な状態に陥っていたというシュペーアの証言もあるとか、本当に航空隊戦術学校で実際に自分たちを"ボマーマフィア"と自称していたのかなど、事実誤認・リサーチ不足といった指摘も。
いまや部屋にいる特定の人物をターゲットにできるほど極限まで極まった爆撃技術を見ると、彼らがいち早く精密爆撃を提唱したのは先見の明があったし、戦争に勝ったのはルメイではなくハンセルだとする結論には、だったらなんでアフガニスタンではあの体たらくだったのかという当然すぎるツッコミも。
カーティス・ルメイ少将。
日本人を「あぶり、煮て、焼き殺した」と嘯き、ベトナム戦争の際には「爆撃で石器時代に戻してやる」と発言した男。
だが、戦中から一貫して原爆投下を疑問視し、後年には「もし、戦争に敗れていたら、私は戦争犯罪人として裁かれていただろう。幸運なことに、われわれは勝者となった」と述懐している。
日本を敗戦に導いた決定打は原爆投下ではなくソ連参戦だと言われているが、指導者レベルでは確かにそうだろうが、ルメイによる本土爆撃が庶民に与えた影響は大きく、大いに戦意を喪失させた。
降伏後に行なった調査によれば、住民の64%が、降伏前にこの戦争はもう戦えないと感じたと答え、その理由として軍事的敗退をあげた人は10分の1以下で、4分の1が食料や生活物資の不足、そして空襲をあげた人がもっとも多かった。
都市住民の士気の低下や敗北感は、疎開により農村の住民にも感染したと指摘されている。
逆に、ルメイが指示した、夜間に低高度で爆撃を行なうという、本来は無謀とも思えるような作戦がものの見事に図に当たり、爆撃を終え帰還した戦闘員の士気は大いに盛り上がったという。
かつてポール・ケネディは、『第二次世界大戦 影の主役』の中で、「日本に対する戦略爆撃攻勢の詳細を物語ることはしない」と記述している。
なぜなら、制空権をめぐる戦いにおいて、「彼我の戦力の差があまりにも大きく」て、英米にとっては「あらゆる面でドイツのほうが強敵だった」ためだ。
つまり、ほぼ迎撃らしい迎撃もないフリーパス状態。
逆に日本の戦闘機の性能以上の高高度から爆撃を行なおうとして、神風ならぬジェット気流によってあえなく挫折したハンセルが滑稽に思えてくる。
本書で考えさせられたのは次の3点。
「第二次世界大戦についてとかく忘れられがちなのは、あの戦争が今とはまったく違う技術環境で起こったということだ。当時は20世紀とはいえ、まだ19世紀に片足を残したままだった」。
ノルデン爆撃照準器は裏で64もの複雑な計算式が働き、地球の自転なども考慮に入れられていたが、当時の気象観測は当然衛星ではなく、気球だった。
もう一つの上層部の無頓着と現場の「即興的破壊」の対比は衝撃的だ。
横浜で瓦礫の山を直に見るまではルメイの言っている航空爆撃の威力がわからなかったスティムソン。
批判しているのではなく、この無頓着さの現場の即興仕事はいまも気づかぬうちに至る所で行なわれていることなのだろう。
それと、敬虔なクリスチャンが、人類のために尽くしているつもりで、爆撃の精度を上げれば人命を救えるを本気で信じるという倒錯。
戦争での民間人の犠牲を最小限にとどめる、崇高な意図に導かれた精密爆撃?
いつだって敵への壊滅的攻撃だけが戦争を終わらせる。
戦争に送り出す息子の無事の帰還は、戦地での敵の悲劇的な死と常に直結している。
爆撃の精度をどれほど上げても、戦争に勝てないし終わらない。続きを読む投稿日:2022.11.04
-
マルコム・グラッドウェルはものすごく好きな書き手だが、これはテーマに対してボリュームが少なすぎ、それだけに単純化が激しい。カーティス・ルメイとヘイウッド・ハンセルをある陣営のそれぞれ代表者に仕立てるに…は論証が足りていないと思われる。面白いんだけど説得はされなかった。
それにしても、日本人はアメリカが好きすぎる。そして同胞の犠牲に対してとても冷淡だ。続きを読む投稿日:2024.03.16
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