人権と国家 理念の力と国際政治の現実
筒井清輝(著)
/岩波新書
作品情報
今や政府・企業・組織・個人のどのレベルでも必要とされるSDGsの要・普遍的人権の理念や制度の誕生と発展をたどり,内政干渉を嫌う国家が自らの権力を制約する人権システムの発展を許した国際政治のパラドックスを解く.冷戦体制崩壊後,今日までの国際人権の実効性を吟味し,日本の人権外交・教育の質を世界標準から問う.
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商品情報
- シリーズ
- 人権と国家 理念の力と国際政治の現実
- 著者
- 筒井清輝
- 出版社
- 岩波書店
- 掲載誌・レーベル
- 岩波新書
- 書籍発売日
- 2022.02.18
- Reader Store発売日
- 2022.05.26
- ファイルサイズ
- 5.4MB
- ページ数
- 252ページ
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この作品のレビュー
平均 4.3 (10件のレビュー)
-
最近の興味の一つ人権について、新書でざっと把握しようと思って読んでみた。
全体の構成としては、
・人権という思想が「普遍的な価値」として誕生し、国際政治の重要テーマとなるまでの歴史プロセス
・それが…国際的なシステムとして設立する過程と内政不干渉の原理とのジレンマ
・人権が世界的システムとしてどこまで有効に機能したか
・それらを踏まえた日本における人権思想と運動の流れ
ということになっている。
これらが新書1冊に入っているので、重要なことも記述はコンパクト。だが、濃縮度が高く、集中を要する本だと思う。
しばしば、人権というのはキレイ事で、現実の政治においては機能しない、偽善的なもの、自国内の人権問題は置いて他国を批判するために戦略的に使われるダブルスタンダードなもの、という批判があるし、私もよくそう思う。
にもかかわらず、これは大切な概念だという思いが同時にある。
本書は、人権は理念で現実との差はあるが、長い目で見ていくと、その理念は少しづつ現実を変えていく力を持っているというスタンスに立っていて、元気が出た。
最終章での日本での人権についての記述は発見が多かった。私たちは、人権は戦後にアメリカから与えられて、自ら勝ち取ったものではないと考えがちだと思う。だが、このディスコースって、本当だろうか?という感覚は常にあった。
改めて、こういうテーマで日本における人権史を整理してみると、明治以降、少しづつではあるが、さまざまな活動を通じて、戦前においても人権が拡大していったし、国際的にも意味のある貢献をしているところもある。まずは、こうした日本における流れを学ぶ必要性を感じた。
また、人権に関連する運動は、社会的弱者、被害者というスタンスで行うと一般的な共感を得ることができないが、「普遍的な理念」として訴えることで、共感が進むというのも示唆に富む指摘だと思った。(一方では、その「普遍性」が軋轢を生むこともあるのだが)
そして、国内における議論だけでなく、他国から見られるということが、人権への取り組みを促進するという視点も大事なことに思える。
例えば、第2次世界大戦時に、反全体主義の国は、人権や民主主義という高次の目的を掲げて、国家の総資源の動員を行なったのだが、戦後になると、それが自分に返ってきて、それぞれの国での人権拡大への要望を受け入れざる得なくなる。
また、冷戦時においては、アメリカはソ連の全体主義を批判するのだが、その批判は、自国内での黒人差別への批判として戻ってくる。当時は、民主主義と社会主義の戦いを理念の上でもしたわけなので、国の安全保障の問題として、黒人差別の改善に取り組まざるを得なくなる。アメリカにおける公民権運動の進展はこうした文脈も考える必要があると思う。
全ての人には生まれながらにして誰でも持つ権利があるという思想は、自然なものではなく、普遍的なものでもなく、18世紀くらいに誕生した言語による社会構築である。つまり「自然権」みたいなものはある種のフィクションである。
人権は社会構築であるという認識は、人権に関連して、ペシミスティックになったり、シニカルになったりする理由にもなる。
そう考えるのは簡単だけど、それがない世界に住むことは想像したくないこと。これまで、数世紀かけて人類が学び、育ててきた理念は脆いかもしれないけど、それゆえに大切にして、少しづつでもその成長を願っていたいと思った。続きを読む投稿日:2023.10.05
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