この作品のレビュー
平均 3.4 (61件のレビュー)
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【感想】
2021年3月22日、Twitterの創業者であるジャック・ドーシーの初ツイートがNFT化され、約3億1600万円で落札された。私はこのニュースをきっかけにNFTの存在を知ったのだが、以降「…デジタルデータに手を加えてオリジナルを作り、お金を稼ぐ」ことがNFTの意義と目的だと思っていたフシがある。
本書は、そうしたNFTビジネスの事例を幅広く紹介する一冊である。メタバース内でのアイテム、アートコレクション以外にも、音楽、ファッション、スポーツといった分野がどのようにNFTを活用してビジネスモデルを構築しているかを解説し、加えて法律や会計といった制度上での取り扱いも詳細に論じている。
NFTの使われ方としては、「プレミア感を前面に押し出してのコレクション」をイメージするかもしれない。もちろんそれも間違いではないが、NFTは売買の対象に留まらない。所有者同士でのコミュニティの形成といった可能性も秘めている。
わかりやすいのがBored Ape Yacht Club(BAYC)の事例だ。
BAYCは2021年4月30日に発足したNFTクラブである。1万体の猿のアバターが発行され、初期はイーサリアム換算で200ドルの価格で販売された。2021年8月現在では最低価格が15ETH(日本円で1体500万円)と驚異の高騰を見せている。
BAYCが他のブランドと一線を画しているのは次のような特徴があるからだ。
・発行したNFT所有者のみが入れる会員サイトが存在
・所有しているアートの商権は所有者が保有
・販売前にロードマップを提示
そしてこの結果、
・同一の種族のアバターを所有することでの組織としての帰属意識が生まれた
・共通のゴールを提示することで組織が統一された
・商権を所有者に渡すことで従来の中央集権的なIP(知的財産)の組み立て方ではなく、コミュニティ主導のIPの盛り上げ方となった
この「帰属意識によるコミュニティの発生」と「コミュニティ主導でIPの価値を生み出し続けていく」という現象が、まさにNFTの特徴だ。現実世界でも同じ製品を持っている仲間たちがコミュニティを形成することはよくあるが、あくまでも一企業が販売している製品の使用者というくくりであり、企業との関わりかたは受動的なものに留まる。
一方、NFTを介すれば、自分が持っているアイテムの価値をユーザー同士で底上げしていくことができる。また、そのアイテムが建物であれば内装のデザイン制作を請け負ったり、衣装であれば付随するアクセサリを作ったりするなど、自分でビジネスを始めてお金を稼ぐこともできる。より主体的な方法でコンテンツと関わりながら、自らの可能性を広げるチャンスが生まれるのだ。
そうした「お金稼ぎ」はNFTと切っても切り離せない。NFTは現在、仮想世界での生活や仕事、創作の方法を変えている。サンドボックスゲームにおけるアバターやゲームの製作者一人ひとりが、Play to Earnによって循環型のエコノミーを形成し、需要と供給を生み出し、自分の遊びの時間を自分の収入をもたらす活動に変えることができるようになった。
それは多くのゲームの成り立ち、つまり「運営側から一方的に遊び方やアイテムが提供され、消費者はそれを購入するしかない」という現状に一石を投じるものだ。アバターや家、絵画、ゲームそのものまでもがユーザーによって作成される世界では、誰でもトップクリエイターに変身するチャンスをつかむことができる。
そう考えると、NFTが単なる一ビジネスの延長線上にあるだけでなく、経済のありかたそのものを変える存在であることが見えてくるのではないだろうか。
――The Sandboxは、完全にユーザーが解放されたデジタル経済の実現を目指しています。単なるプラットフォームの提供者であり、クリエイターが制限なく活躍する世界を作る支援をすることに全力を注いでいます。
――自分のビジネスをメタバース上で始め、お金を稼いでいく。オリジナルでなくてもデジタルデータにお金を払う世代にとっては、気に入ったデジタルデータに希少性が加わること自体がまず付加価値となる。さらにNFTをもつことにより、同NFTコミュニティへ所属することもできる。こうした所属意識や「自慢する権利(bragging rights)」は人間の普遍的な本能ではないでしょうか。
……とポジティブな事例を並べてみたが、そうはいってもNFTはまだまだ発展途上である。今までの経済を刷新する「ニューエコノミー」と言えば聞こえがいいが、その内部で行われているのはあくまで従来通りの需要と供給が支配する物質経済である。「モノ」よりも「ステータス」に重きを置いているのが新しさ、と言えなくもないが、まだまだ未熟な要素が多いことは否めない。非代替性であるとはいえ、ネットワーク上にしか存在せず、実際に姿形がないものに対して所有欲が満たせるか、NFTの希少性や保有価値を世の中に示すことができるかなど、クリアすべき課題は依然として多い。現実世界の模倣を超えるようなシフトが必要なのは間違いないだろう。
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【まとめ】
1 NFTの現在の立ち位置
NFTとはノンファンジブルトークンの略。意味は「代替不可能なトークン」、意訳すれば「世界に1つだけのデジタル資産」である。NFTにはブロックチェーンが使われているが、その中に固有のIDや情報を持たせることで唯一無二のデータだと証明することが可能となっている。
日本では、2020年からNFTに対するビジネス界隈の関心が高まった。暗号資産の取引所だけでなく、ゲーム会社や出版社など、NFT化できる版権やコンテンツを保有するIP事業者がNFTビジネスに参入し始めたのである。日本はコンテンツ大国という地の利があるため、法的な整備を含め、NFTビジネスへの理解を加速する必要がある。
NFTは誰でも発行できるがゆえに、第三者の画像をコピーして出品したり、怪しい儲け話に使われたりする事例が発生している。「いいものがちゃんと残っていく」という市場に収斂するためにも、利用者保護のための法規制や、利便性を向上させるためのUI/UXの洗練、取引所の開設が鍵を握る。
2 NFT×アート
希少性を価値の源泉とする「アート作品」はNFTと相性がいい。
スイスに本社を置くSuum Cuique Labs社がプロデュースしたプロジェクト「Hashmasks」は、70名以上のクリエイターが8カ月もの期間を要して準備した1万6384体のマスクに個性を与えたアートである。2021年1月28日の販売と同時に即完売した。
NFTアートの市場は盛り上がりを見せているが、現在の法ではデジタルデータ、すなわち「無体物」には所有権が適用されない。この問題を解決するために、アート作品にICタグ付きブロックチェーン証明書を発行するインフラサービス「Startrail」が注目を集めている。
3 NFT×メタバース
メタバースもNFTと相性がいい。メタバース内でのアイテムをNFT化することで、下記のようなメリットが得られるからだ。
①価値の希少性を担保できる
②アプリケーションを越えて所有し使用できる
③現実世界で実質的な価値を持てる
特に②、つまり「ポータビリティ性」が破壊的概念である。今まではアプリケーション内で買ったデジタルアイテムはそのアプリケーションでしか利用できないことが大半だったが、ブロックチェーンには所有データが属しているため、どの世界にも自分が購入したデータを持っていけるようになった。
③の事例としては、メタバース内の土地や不動産、アバターなどがタグ付けされることによって二次売買が可能となったことが挙げられる。
RTFKT(アーティファクト)というブランドはメタバース向けのアパレルブランドである。2021年に発売したバーチャルスニーカーコレクションは7分以内に完売し、約3.2億円相当を売り上げた。
Bored Ape Yacht Club(BAYC)は2021年4月30日に発足したNFTクラブである。1万体の猿のアバターが発行され、初期はイーサリアム換算で200ドルの価格で販売された。2021年8月現在では最低価格が15ETH(日本円で1体500万円)と驚異の高騰を見せている。
BAYCが他のブランドと一線を画しているのは次のような特徴があるからだ。
・発行したNFT所有者のみが入れる会員サイトが存在
・所有しているアートの商権は所有者が保有
・販売前にロードマップを提示
そしてこの結果、
・同一の種族のアバターを所有することでの組織としての帰属意識が生まれた
・共通のゴールを提示することで組織が統一された
・商権を所有者に渡すことで従来の中央集権的なIP(知的財産)の組み立て方ではなく、コミュニティ主導のIPの盛り上げ方となった
NFTを保有する人たちとコミュニティを形成し、コミュニティ主導になったことで、自身が持つNFTの価値を自分の貢献によって上げられる。これがコレクティブルNFTによって起きたパラダイムシフトである。
このように新規IPが独自の発展を見せていくなか、既存のIPはなりをひそめている。いままで利用先を絞ることによって許諾料を取っていたビジネスが、「アプリケーションを超えた利用」というNFT独自の性質の前で通用しなくなったからだ。NFTを意識した権利の醸成や、独自のライセンス規格にシフトしていくための時間が必要である。
4 NFTの技術的課題
・画像データの管理
現在のNFTマーケットプレイスで取り扱われている多くのNFTは、画像データを取得するためのURLをブロックチェーン上で管理しているが、画像データそのものは管理していない。画像データはAWSなどのサードパーティのストレージサービスで管理されている。ブロックチェーン上に画像データ等の大きなサイズのデータを保存する際には、トランザクションの手数料(ガス代)がかかるため、NFTの管理コストがとても高くなってしまうからだ。
すると、サードパーティのストレージサービスが何らかの影響によって利用できなくなったとき、その画像も利用できなくなるといった問題が発生する。
・トランザクションのスケーリング
イーサリアム上で取引が増えるにつれ、トランザクション手数料が徐々に高騰していって、すべての取引に対して影響を及ぼすことになる。
・NFTマーケットプレイス間の互換性
NFTを発行する際の規格が異なっていたり、売買手数料の比率がマーケットプレイス間で異なっているため、あるNFTが他のNFTマーケットプレイスで使用できなかったり、クリエイターであるNFT発行者に還元される利益率に差が出てきたりする。
5 NFTの未来
NFTの有効性を考えるには、相応の想像力が必要である。作品の命名権、土地の所有権、アバターの着せ替えなど、デジタルネイティブなユーザーに対して、どのようや特典や体験が価値となるのか、アナログな常識を取っ払って考えてみる必要がある。
私達がデータを使ってゲームやアイテムを作ったり、取引したり、コミュニティを作ったりすることは「権利」である。データが莫大な価値を産むようになった今、デジタルデータに関する権利は、現実の世界と同じように「人権」でなければならない。ところが、現実のデジタル空間では、そうした権利はGoogleやFacebookなどの大手IT会社の利用規約によってコントロールされている。ユーザーは巨大プラットフォームが決めた条件の中で生きていて、みんながそれに翻弄されている。その壁を壊し、デジタル空間を劇的に民主化するのが、ブロックチェーン及びNFTなのだ。続きを読む投稿日:2022.03.12
読みましたが、この本はNFTについて全て網羅されております。しかしあまりにも膨大な情報であり、読み物より参考資料のような位置付けです。
この本の活用方法として、NFTを実際に使用した事がない人が読むも…のでは無いと思います。
NFTを実際に購入や売買、作成、等を経験した人が読むと真価を発揮します。初心者向けではありません。読み物より資料集としてなら最高な書籍です。続きを読む投稿日:2024.01.29
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