戦姫アリシア物語 婚約破棄してきた王太子に渾身の右ストレート叩き込んだ公爵令嬢のはなし
長門佳祐(著)
,葉山えいし(イラスト)
/アース・スターノベル
作品情報
「アリシア・ランズデール! 貴様との婚約を破棄し、反逆罪で・・・・・・へぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!」
王太子に会心の右ストレートを放つとともに国外へ脱出した公爵令嬢アリシア。元帥号をもつ将校かつ、戦の天才でもある彼女を助けたのは、敵国の第一王子で、しかも理由は「嫁にしたいから」だった!?
帝国軍にアリシアを迎えることで、長く続いた王国VS帝国の戦は、最終局面に突入。反逆罪ものの大事件の行く末は? ほのぼの優しくてくすくす笑える、ドタバタ戦乱コメディ。
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この作品のレビュー
平均 5.0 (1件のレビュー)
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タイトル部分が冒頭からさっくりと始まりその後の展開も軽妙に続くものだから、ライトな内容の話かと思いきや会戦描写や政治工作などには非常に深みが有る
また、序盤では考えも人間性も浅いように思われた人物が後…半で意外な深みを見せるのも面白かったな
具体的に言ってしまえば、とても好みな作風でしたよ!
冒頭から王子によって婚約破棄が叩きつけられ、アリシアが代わりに拳を叩き込んだわけだけど、この状況ってむしろ王国の側が最初から積んでるんだよね
蛮族を撃退し帝国との戦いでも最前線で活躍し続ける。国の騎士の大部分も王ではなく彼女に忠誠を誓う。そして王家よりも正当な血筋を持ち、王子とその母は嫌われ者
こうまで各種要素が揃ってくるとむしろアリシアを放逐することで王国側は非常に困ったことになるし、対立する帝国にとっても彼女を取り込む旨味ばかり。何がどう転んでもアリシアにとって優位な状況というのは追放系としては特徴的かも
つまりアリシアが局面の舵を握る側と言えるのかもしれないけど、そのアリシアを取り込まんとする帝国のジークハルトも中々の傑物だったね(笑)
軍人皇族としても中々の功績なのだけど、アリシアに一目惚れして彼女と結婚する為に数々の裏工作を実行したのかと思うと、その熱意には平伏したくなるね
まあ、そもそも皇子の意向に従って軍や諜報が動いたというのも凄い話では有るのだけど(笑)
ジークハルトは部下達とバカみたいな遣り取りに終始しているのだけど、一応有能さは見える裏工作では有るんだよね。でも、本当に言動の数々が能天気を通り越しているのではないかと思える程に酷い(笑)
アリシアの出奔やジークハルトの策略をコミカルに描写しつつ抑えるべき政治の理論を踏まえて展開される話はとても良いものでしたよ
こういった設定の下地になるような部分って地味で複雑だから勢いで遣り過したって多少のツッコミが入る程度で済ませられるのに、きちんと納得できるように抑えているのだから凄い
冒頭のアリシア出奔は勢いに満ちていてゲラゲラ笑える感じに描かれているのに、その後に帝国側の地道な裏工作が明かされることで納得できるものになっているね
ただ、その帝国側の裏工作を超える活躍を見せてしまったのがアリシアや彼女を慕う少女たちだったのだけど(笑)
そして本作のもう一つの魅力である会戦描写は本当に素晴らしいの一言
アリシアは単騎で戦場のバランスを壊せる程の実力を持っている。だから彼女を縦横無尽に駆け回らせるだけでも充分に描写としては面白くなるのだけど、一方で指揮官としての能力も非凡である為に、アリシアが戦場に現れるだけで様々な活躍を期待できるという
これ、真面目に戦争をする側からすれば彼女ほど反則じみた相手は他に居ないんだろうなぁ……
そもそも魔力を持っているだけの平民娘500余名を煉獄を生き抜ける騎兵として育て上げたという時点でとんでもないんだけどね……
だから何がどうなろうとアリシアが抜けた王国軍とアリシアが指揮する帝国軍の戦いの結末なんて決まりきっていると言える
なら、問題となってくるのは戦争責任者をどうするか、という点に尽きるのだけど、そこに関しても本作の魅力が活きているね
冒頭にしょうもない理由によってアリシアに婚約破棄を叩きつけた愚王子のエドワード。彼は一貫して人を率いる者として相応しい資質を持たない人間として描かれているのだけど、それをフォローする描写も見受けられるね
アリシアが時代を揺り動かす超越者であるならば、エドワードは間違って高い地位に就いてしまった凡人。だからアリシアへ劣等感を抱いてしまって大きな間違いを犯してしまいそれが国を揺るがす大事件に繋がってしまった
だからエドワードに最も必要だったのは支えてくれる人間ではなく、その雁字搦めになった立場から引きずり下ろしてくれる人間だったのかもしれない
最後、自分を陥れたエドワードに対して一方的に捲し立てたアリシアの姿は本当の本当に良かったなぁ……
立場としてはエドワードは悪の王子でアリシアは正義の軍人で何度も2人はぶつかりあった。けれど最後の最後にアリシアは「お互い様だ!」と言い切った。そしてエドワードが幸せになることは「いいことだ!」とも言い切った
この瞬間に戦争は終わって、アリシアもエドワードも幸せになれたんじゃなかろうか。そのくらいに本当に良いシーンだったわ……
後書きによると元々は恋愛小説だったとは思えないほどの熱量が込められた作品だっただけに、これにて問題の大部分に片が付いた状態で次巻ではどのような物語が繰り広げられるのかと期待が高まってしまうね
なんか、巻末SSでかなり未来の話が平然と描かれているものだから驚いてしまったけど。次巻は恋愛描写が深められるのか、それともこの巻では大人しめな活躍だった者達に大活躍の機会が与えられるのか。果たしてどちらだろうね
そういや、本作の世界観は乙女ゲーを基にした世界で一定の人物はこの世界が乙女ゲーである事を知っているという大層滅茶苦茶な設定なのだけれど、肝心のゲーム主人公である転生者アンヌはとても控えめな活躍だったね
後書きで言及されているように黒幕的なポジションでは有るものの、それはアリシアの為であるし状況全てを操っていたわけでもない
敢えてその立ち位置を現すなら、ドラえもんかもしくはアリシアの茶飲み友達か。
今後は彼女も表舞台に立たざるを得ない事態とかも有ったりするんだろうか?続きを読む投稿日:2021.09.18
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