エロティック日本史 古代から昭和まで、ふしだらな35話
下川耿史(著)
/幻冬舎新書
作品情報
日本の歴史にはエロが溢れている。国が生まれたのは神様の性交の結果で(そしてそれは後背位だった)、奈良時代の女帝は秘具を詰まらせて亡くなった。豊臣秀吉が遊郭を作り、日露戦争では官製エロ写真が配られた。――本書ではこの国の歴史を彩るHな話を丹念に蒐集し、性の通史としていたって真面目に論じてゆく。「鳥居は女の大股開き」「秘具の通販は江戸時代からあった」など驚きの説が明かされ、性を謳歌し続けてきたニッポン民族の本質が丸裸になる!●混浴とフリーセックスで生まれた神々●あの大黒さまが夜這いの元祖●日本初の尼は全裸でむち打たれた●平安のエロ本は陰茎を擬人化した物語●初の春画は法隆寺の天井裏に描かれた●戦乱の世でセックス宗教が大人気●「全国243大名の性生活調べ」(『土芥寇讎記』)には水戸黄門の名前も●吉原太夫の客にありがちな下半身の悩み●日本人の並外れた淫乱ぶりに憤るペリー ・・・・・・など
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この作品のレビュー
平均 3.2 (10件のレビュー)
-
必要に迫られて読みましたが、予想外に面白かったです。
読後、日本の歴史は「エロ」に彩られているとの感を強くしました。
まず、よく知られていることですが、「国生み」の物語からしてエロい。
日本最古の資料…である「記紀」には、こうあります。
まず、「古事記」。
イザナギが「自分には成り成りて成り余れるところがある」と語ったところ、イザナミは「自分には成り成りて成り合わぬところがある」と答えたので、イザナギが「汝が身の成りあわぬところを刺し塞いで国生みをなさん」といって関係したといいます。
続いて「日本書紀」の「神代編」。
イザナギが「自分には陽の元といわれるものがある」といったのに対し、イザナミが「自分には陰の元がある」と答えたので、イザナギは「自分の陽をあなたの陰と合一させよう」といって関係したとあります。
著者は、「『日本書紀』の『陽の元』『陰の元』という表現に比べると、『成り成りて成り合わぬところ』とか、『汝が身の成りあわぬところを刺し塞いで』といった『古事記』の記述の方がはるかに生々しく、わいせつ感が漂っているように感じられる」と指摘しています。
私も同感です。
著者の興味は、ここからさらに掘り下げられます。
「ではこの時、2人はどんな体位で関係したのだろう?」
何もそこまで…と、少しあきれつつも、ページを繰る手が止まりません。
著者は、「神代編」の、こんな記述に注目します。
「(イザナギ、イザナミは)遂に交合せんとす。しかし、その術を知らず。時にセキレイありて、飛び来たりその首尾を揺す。二柱の神、それを見て学び、即ち交の道を得つ」
つまり、2人がどうやって関係したらいいのか分からず困っている時に、セキレイがつがいで飛んできて、頭や尻尾を震わせながら交尾した、というのですね。
それを見た2人は同じ要領で交合したそうです。
したそうです、って別に直接見たわけではないから分かりませんが…。
「小鳥の交尾は後背位であるから、それに学んだイザナギ、イザナミも当然ながら後背位で結ばれたはずである」とは著者の推理です。
面白いですよね。
天照大神が天の岩戸に引きこもった時、その岩の前で天鈿女命(アメノウズメノミコト)がストリップを演じたという話も、日本神話の中では有名な話です。
私は知りませんでしたが、「鳥居は女の大股開き」という説もあるそう。
「夏至祭」「岬の蛍」などの純文学作品がある佐藤洋二郎は、こう述べています。
「神社全体は女性の子宮にたとえられている。男性が水垢離、湯垢離をして体を清め、参道を逝ったり来たりしてお願いごとをする。鳥居は女性が股を広げている格好で、上部に神社名があるところは、女性の敏感なところだとも言われている。そこを身を清めた男性が行き来するのは、男女がセックスをする姿だ。境内に男性の性器をかたどったものがあったり、二つに分かれた樹の股を大切に扱ったりするのもそのためだ」(2014年11月25日「東京新聞」)
一事が万事、こんな調子で、以下、気になった箇所を羅列していくと―。
「男女が歌を交換しながら次第に高揚して関係する『歌垣』は乱交パーティーの始まり」
「女性用おもちゃは奈良時代からある」
「道鏡の巨根では物足りなくなった称徳天皇」
「絶倫で財政難を招いた嵯峨天皇」
あからさまといえば、あからさまな性風俗はしかし、国の基盤が整備されるにつれて、国の繁栄を寿ぐセレモニーへと変質しました。
歌垣は「踏歌」と呼ばれるエロティシズムとは無縁の皇室行事になりましたし、田植えも豊作祈願と称して男女の性交の姿を演じたり、場所によっては豊作祈願を口実に、実際に性関係を結ぶケースが見られましたが、皇室行事として定着した結果、御田祭りという色っぽさの削がれたイベントになりました。
ただ、これらの皇室行事の原初に「エロ」があったことは知っていて損はないと思いました。
さて、世の中はお盆ですが、「盆踊り」もエロと関係が深いと知って驚きました。
元々は中世の念仏踊りから起ったもので、最初から男女の乱交を伴ったレジャーだったそう。
盆踊りは江戸時代に盛んになりましたが、明治の新政府にとっては不名誉極まりないもので、1870年(明治3年)には前橋藩で「盆踊り禁止令」まで出たそうです。
盆踊りを見る目が変わりそうですね。
こうした「目からウロコ」の話が、本書にはてんこ盛りなのでございます。
紳士淑女にはおススメできませんが、これも我が日本の歴史と思えば、夏休みに静かに向き合うのも悪くないかもしれません。
最近は、「国の歴史を正しく教え、愛国心を育もう」という声が強いですが、私の個人的な愛国心は本書を読んで損なわれるどころか、むしろ亢進しました。
叫んでもいいんじゃないでしょうか、「ニッポンを取り戻す!」って。続きを読む投稿日:2016.08.16
日本史のエロにまつわるエピソードを紹介した本。性の通史を書こうとしたそうだが、著者も後書きで述べている通り、エピソードの寄せ集めに終始した感がある。とはいえ、古代から近代まで、性風俗の流れがとっつきや…すくまとまっている良著だ。
印象に残ったのは、各時代における性を売る女性の変遷で、平安時代の遊女はキャリア女性であり、教養と美貌を備えた女性のキャリアアップの手段として認められていたという。今をときめく貴族の娘が遊女をしていたというのは、現代の感覚とはかけ離れている。鎌倉時代の白拍子なども、自分の踊りの芸と性的な生き方に自信を持った自立した女性であり、遊郭に閉じ込められた籠の鳥となっていくのは戦国時代以降のことだった。遊女の歴史については参考文献も紹介されていたので、別途勉強してみたい。
また、平安時代後期以降、「読経」が官能的なものとして男女の心を虜にしたというのも驚きだ。今で言うカリスマロックバンドのようなものだろうか?法然・親鸞の配流事件も、後鳥羽上皇の側室が法然の弟子の読経に心を奪われ、出家を懇願し御所に泊めたことが原因という(昔習った気がするけどこんな面白い事件だったとは)。
室町時代に流行った踊り念仏は、乱交パーティーをもって宗教的な解脱の境地とするものであり、のちに盆踊りへと変化するものであった。その背景には、鎌倉期以降ずっと庶民にとっては「戦国時代」=乱世が続いていたことがあるというのも興味深かった。
また、明治維新における性の封じ込めが、日本の性風俗に大きな変化をもたらしたことも指摘されていた。長らく積ん読本になっている「裸はいつから恥ずかしくなったか」を、そろそろ読まねばなるまい。
ひとつひとつのエピソードが短くまとまっているので、読みたい章から読むことができ、また思ったより真面目なちゃんとした本なので、タイトルに尻込みせずに読んでみることをオススメする。続きを読む投稿日:2022.04.05
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