これからの仕事になぜ哲学が必要なのか
岡本裕一朗(著)
/アルク
作品情報
答えのない時代に先端企業が雇う「インハウスフィロソファー(社内哲学者)」
「哲学って、大学で学ぶものじゃないの?」
「仕事が忙しくて、哲学をやってるヒマなんてないよ!」
かつて、哲学は難しい言葉を使いながら、あれこれ議論するヒマ人の趣味のように考えられていました。そんなものが、どうして必要なのでしょうか?
ところが、最近は状況がすっかり変わっているのです。
世界的な先端企業が、「インハウスフィロソファー(社内哲学者)」を雇っているのは、今ではよく知られています。
現代は、「答えのない時代・VUCAの時代」と言われます。
社会そのものが今までのやり方ではうまくいかない、前提そのものが揺らぎ始める時代。
答えを出す以前に、問いそのものがあらかじめ決まっていないとしたら……。
こんな時代こそ、哲学が求められるのではないでしょうか。
人事、営業、マーケティング……、全部署必見!
企業の問題を、哲学を使って考えてみる ~「23の思考実験」から見えてくるもの~
本書は、広報部、企画開発部、営業部、人事部、システム部、経営者……、それぞれの立場に関わる問題を「23の思考実験」に落とし込み、企業が抱えがちな現代的な悩みに向き合います。
どこの章から読み始めても大丈夫!
絡み合った職場の課題を、哲学者はこうやって考えます。
ぜひ、哲学×ビジネスの世界へ足を踏み入れてみてください。
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この作品のレビュー
平均 3.3 (4件のレビュー)
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『いま世界の哲学者が考えていること』の岡本裕一郎さんがビジネスの観点から哲学の絡みを試みた本。近年、リベラルアーツを身に付けることが必要だとされている。本書はビジネスにおける課題にいかに哲学が適用でき…るのかを考えたものとなっている。実際の会社をリサーチして課題をあぶり出した上で、著者にそれに対して哲学的観点からの議論を試みたものである。『これからの仕事になぜ哲学が必要なのか』というタイトル通りの意図の本となっている。
そこで気になったのは副題の「不確実な時代を生き抜く23の問い」である。本書の目次や内容を読んでも、どれが23の問いになっているのかわからない。各章に含まれる番号は振られていないがサブ章タイトルの多くがクエスチョンマークで終わっているので、そのことかと思ったのだが、その数は残念ながら23個を超えてしまう。どうやら「思考実験」とされるコラムのようなものを数えるとちょうど23になるので、どうやらこのことを言っているのではないかと思われる。しかし、思われはするのだが、まずそれらは思考実験とされているのでそれ自体は「問い」ではない。さらに以下に挙げる通り、最初の方はクエスチョンマークがついて問いの形式をしているが、最後の方になるとエクスクラメーションマークやマークなしのものもでてきて統一されていない。何より、「23」がこの思考実験の数を示しているということが自分の見た限りどこにも明示されていない。そもそも23という数自体に意味はない(ヒトの染色体の数が23だけれどもたまたまだろう)のだから、こんな副題は単に削除してしまえばよかったはず。この辺りは雑なつくりのように見えて残念。
第一章 マーケティングはどこへ向かうか?
① タダ乗り戦略はどこまで許容できるか?
②情報操作はどこまで許容されるか?
③「物語性」か、脳への「刺激」か?
第二章 あなたの仕事、やりがいありますか?
④ブルシット・ジョブならやめるか?
⑤ベーシック・インカムを導入に賛成すべきか?
⑥あなたは経験機械につながれるか?
第三章 人をどう育てるか、人材をいかに管理するか?
⑦パワハラか指導放棄か?
⑧徒競走はどうすべきか?
⑨くじ引きで部署を決めたら?
第四章 コンプライアンスは必要だが、十分ではない?
⑩社員の自殺は企業に責任があるか?
⑪中毒させるゲームは販売をやめるべきか?
⑫感染症下でのイベント開催はコンプライアンス違反か?
⑬功利主義では解決できない?
第五章 どうすればガバナンスは可能になるか?
⑭ボトムアップ式の意志決定がいいのか?
⑮社員の監視はどこまで可能か?
⑯ユーザから得られる情報は誰のものか?
⑰どうやって苦境を超えていくか?
第六章 新しいワークスタイルと哲学
⑱オフィスはもういらない!
⑲ノマド・ワーカーのすゝめ
⑳どんな仕事をしたいか?
第七章 人間の未来はどうなるか?
㉑人間をサイボーグ化する
㉒長寿化が実現したらどうするか?
㉓FIREムーブメント
各章の印象だが、
第一章は、ボードリヤールまで遡る消費社会の話だけれども、ネットの世界ならではの議論にももう少し踏み込める余地があったような気がした。またユヴァル・ノア・ハラリやリベットの実験の話まで入れるのであれば、もっと深い話にももっていけたようにも思う。また、まとめにあるようにマーケティングとプロモーションが一体となって考える必要があるのは何も今になっての話でもないような。
第二章は、端的に言ってデヴィッド・グレーバーの『ブルシット・ジョブ』の内容を超えるものではない。
第三章は、軸はマイケル・サンデルの『実力も運のうち』になるのだけれど、まとめがそれを反映できていない。
第四章は、コンプライアンスについて、ということだが、功利主義的な方法の導入をと著者はいってみる。それよりも顧客と企業の情報の非対称性や、競争規制、コモンズなどが課題になるのではと思うのだが、あまり触れられていない。
第五章は、ローレンス・レッシグやミシェル・フーコーを援用して、統治の方法にはいくつかの種類があるという話は面白かった。単に自分がフーコーのことを好きだからかもしれないが。
第六章は、ドゥルーズのノマドとリモートワークやギグ・ワーカーとを連結しようとしているが、なかなかにハードルがある議論だと感じた。紹介されているジグムント・バウマンは今読まれるべき人かもしれない。
第七章は、労働倫理の話や、個人の生産力を通した社会貢献などに関して、何をよきものとするのかという点が哲学的な観点からの課題になるのでは。
正直な感想としては、言っていることがある程度想像がついたのでかなり飛ばし読みをすることができるものだった。もし岡本さんの本を読むとするならこの本よりも『いま世界の哲学者が考えていること』の方をお薦めする。
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『いま世界の哲学者が考えていること』(岡本裕一郎)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4478067023
『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』(デヴィッド・グレーバー)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4000614134
『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(マイケル・サンデル)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4152100168続きを読む投稿日:2022.12.18
このレビューはネタバレを含みます
映画『ぼくらの哲学教室』(2021アイルランド他)を見て感化されて読んでみたもの。
レビューの続きを読む
映画の中でも、児童たちに説いていたが、「問う」こと、それが哲学の肝であるのかな。
「これからの仕事に~」と、…ビジネス寄りのタイトルを付け、内容も、「マーケティングはどこへ向かうか?」(第1章)、「どうすればガバナンスは可能になるか?」(第5章)と、それっぽい章立てをして、ビジネスの現場で問題になりそうなことを「思考実験」の例として挙げているが、「だから?」という思いが先だってしまう。なにより、その回答、答え合わせがないからだ。
哲学者たる著者(大学教授)が、出版社のスタッフと議論を重ね、書き上げたものらしく、想像するに編集会議の席上、出版社側から例示された職場における課題、問題が大半なのであろう。それなりに実社会に則したものであるが、いかんせん、現場を知悉していない著者は、そこに「問い」は見いだせても、解決策は提示できていない。
そもそも、ビジネス指南書の類も、過去の成功例を、あたかも、勝利の方程式の如く解説してはみせるが、決して実践的ではないことが多いので、本書もその類か。
で、そこで、気づかないといけない。哲学とは、答えそのものを指し示すものではない、ということに。
割りと、冒頭近くにあった、「ちゃぶ台返し」をするのがソクラテス以来の哲学の特質である、という著者の記述が、一番正鵠を射ているのだろう。
「根本にあるのが、前提そのものをあらためて問い直すことです。つまり、社会的に常識とされているような知識が、はたして「本当に正しいのか」を、あえて質問し、その根拠を尋ねていくのです。これは、ある意味では、それまでの議論を根底からひっくり返すことになりますから、「ちゃぶ台返し」と呼ぶこともできます。」
また、以下の考えも、ある意味、正しそう。
“「VUCAの時代」に哲学が必要になるもう一つの特質は、哲学が一つの考え方に固執せず、むしろさまざまな可能性を想定することにあります。“
本書にも、あるように、2つのテクノロジー(バイオおよびIT)が飛躍的、加速度的に発展する現代、勢いに流されることなく、ふと立ち止まり問い直す、「本当に正しいのか」と考え直し、あらゆる可能性を想定し、場合によっては、ちゃぶ台返しを忖度なく行う、そこは、本書からの学びかな。続きを読む投稿日:2023.08.09
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