青と緑 ヴァージニア・ウルフ短篇集
ヴァージニア・ウルフ(著)
,西崎憲(編訳)
/亜紀書房
作品情報
〈 じつに、ウルフ的、もっとも、実験的。〉
イマジズムの詩のような「青と緑」、姪のために書かれたファンタジー「乳母ラグトンのカーテン」、園を行き交う人たちの意識の流れを描いた「キュー植物園」、レズビアニズムを感じさせる「外から見たある女子学寮」など。
短篇は一つ一つが小さな絵のよう。
言葉によって、時間や意識や目の前に現れる事象を点描していく。
21世紀になってますます評価が高まるウルフ短篇小説の珠玉のコレクション。
――ウルフは自在に表現世界を遊んでいる。
ウルフの短篇小説が読者に伝えるものは緊密さや美や難解さだけではない。おそらくこれまでウルフになかったとされているものもここにはある。 たぶんユーモアが、そして浄福感が、そして生への力強い意志でさえもここにはあるかもしれない。(「解説 ヴァージニア・ウルフについて 」より)
【目次】
■ラピンとラピノヴァ……Lappin and Lapinova
■青と緑……Blue & Green
■堅固な対象……Solid Objects
■乳母ラグトンのカーテン……Nurse Lugton's Curtain
■サーチライト……The Searchlight
■外から見たある女子学寮……A Woman's College from Outside
■同情……Sympathy
■ボンド通りのダロウェイ夫人……Mrs Dalloway in Bond Street
■幸福……Happiness
■憑かれた家……A Haunted House
■弦楽四重奏団……The String Quartet
■月曜日あるいは火曜日……Monday or Tuesday
■キュー植物園……Kew Gardens
■池の魅力……The Fascination of the Pool
■徴……The Symbol
■壁の染み……The Mark on the Wall
■水辺……The Watering Place
■ミス・Vの不思議な一件……The Mysterious Case of Miss V.
■書かれなかった長篇小説……An Unwritten Novel
■スケッチ
・電話……The Telephone
・ホルボーン陸橋……Holborn Viaduct
・イングランドの発育期……English Youth
■解説 ヴァージニア・ウルフについて——西崎憲
■年表
___________________
《ブックスならんですわる》
20世紀の初頭、繊細にしてオリジナルな小品をコツコツと書きためた作家たちがいます。前の時代に生まれた人たちですが、ふっと気づくと、私たちの隣に腰掛け、いっしょに前を見ています。
やさしくて気高い横顔を眺めていると、自分も先にいくことができる、そんな気がします。いつも傍に置いて、1篇1篇を味わってみてください。
___________________
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商品情報
- シリーズ
- 青と緑 ヴァージニア・ウルフ短篇集
- 著者
- ヴァージニア・ウルフ, 西崎憲
- 出版社
- 亜紀書房
- 書籍発売日
- 2022.01.19
- Reader Store発売日
- 2022.01.28
- ファイルサイズ
- 2.3MB
- ページ数
- 256ページ
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この作品のレビュー
平均 3.5 (4件のレビュー)
-
絶版のちくま文庫版と収録作品はほぼ同じ。以前読んだとき同様、やはり「キュー植物園」の完成度がとびぬけてすばらしい。園を行き交う人びとが、ありえたかもしれない過去に思いをよせたり、でもいま手にしているこ…の現実でよかったんだと思いなおしたりする意識の流れが、花々や蝸牛の描写をおりまぜつつ見事に点描されている。絵で喩えるならジョルジュ・スーラの「グランド・ジャット島の日曜日の午後」のよう。
他には「堅固な対象」「池の魅力」も好み。一方、焦点のない構図で撮影された写真みたいに、とりとめがなくてよくわからない話も。
【ノーツ】
▶20世紀は「メタ」の時代
・訳者解説によると、ブルームズベリー・グループはメタ倫理学のG.E.ムーア(ケンブリッジ大学)と関係が深かったらしい。ウルフの解説でムーアの名前が出てきて意外。以下のムーアの主張は小説の解釈にも援用できるとのこと
・「美しい客体というものは有機的な統一体であり、ひじょうに複雑な統一体であるので、どの部分であれ一部を熟考することに価値はないかもしれない。けれども統一体にかんする熟考は当該のその一部にたいする熟考を含まないかぎり、価値をもたないだろう」(G.E.ムーア『倫理学原理』)
・メタ =「一段と高い階型の」、メタ的な視点に立つ = 対象の前提を疑う = 自己言及
・20世紀は「メタ」があらゆる学問分野で生じた時代。多くの人がそれまでの前提や自明性を疑うようになり、あらためて「自己」について考えだした。ウルフの意識の流れもその一例
▶視覚=指示
・(語り手が)xを視覚的に描写する、xに視線をむけながら語る =(読者に)xを視るよう指し示す
・ウルフの短編を読むなかで読者が目にするのは、「細部まではっきりと見える本質的に不明瞭なもの」(230頁)
【目次】
■ラピンとラピノヴァ……Lappin and Lapinova
■青と緑……Blue & Green
■堅固な対象……Solid Objects
■乳母ラグトンのカーテン……Nurse Lugton's Curtain
■サーチライト……The Searchlight
■外から見たある女子学寮……A Woman's College from Outside
■同情……Sympathy
■ボンド通りのダロウェイ夫人……Mrs Dalloway in Bond Street
■幸福……Happiness
■憑かれた家……A Haunted House
■弦楽四重奏団……The String Quartet
■月曜日あるいは火曜日……Monday or Tuesday
■キュー植物園……Kew Gardens
■池の魅力……The Fascination of the Pool
■徴……The Symbol
■壁の染み……The Mark on the Wall
■水辺……The Watering Place
■ミス・Vの不思議な一件……The Mysterious Case of Miss V.
■書かれなかった長篇小説……An Unwritten Novel
■スケッチ
・電話……The Telephone
・ホルボーン陸橋……Holborn Viaduct
・イングランドの発育期……English Youth
■解説 ヴァージニア・ウルフについて——西崎憲
■年表
【引用】
■堅固な対象……Solid Objects
ジョンの心のなかにこうした思いがあったか、あるいはなかったか、いずれにせよガラスはマントルピースの上に置かれることになった。ガラスは請求書と手紙の束の上に鎮座し、素晴らしいペーパーウエイトになっただけでなく、書物のページからふと目が離れた折など、視線の止まり木として絶好のものになった。考えごとの途中で何度も何度も視線の対象になったものというのはそれが何であれ、思索の織物と深く関係を持ち、本来の形を失い、すこし違ったふうに、空想的な形に自らを作りなおし、まったく思いがけないときに意識の表面に浮かびでたりするものだ。(32頁)
■キュー植物園……Kew Gardens
こうした言葉のあいだには長い沈黙が挟まれていた。ふたりとも表情も変化も乏しい声で話した。ふたりは花壇に密着するようにして凝と動かずに立っていた。それからふたりで女の持っていたパラソルを柔らかい地面に深く突き刺した。その行動と女の手の上に男の手が重ねられたという事実は、ふたりの感情を奇妙な形で表現していると言えた。あたかもふたりの取るに足らない会話が、やはり何かを表現していたように。短い翼しか持たない言葉は意味で重くなったふたりの体を遠くまで運ぶには力が足りず、ただ周囲をとりまくごく当たりまえのものに無様にぶつかるだけだった。そしてそのせいで接触がそれほど力の籠ったものになった。(128頁)
■池の魅力……The Fascination of the Pool
もし人が藺草の茂みに腰を下ろして池を見るならば──池というものは何かしら不可思議な魅力を具えている。人が説明することのできない魅力を──赤と黒の文字が記された白い紙が水の表面に薄く貼りついているというような印象を覚えるだろう。また一方、その下では理解の及ばない水の生活が営まれているという印象も受けるはずである。人の精神における思索や熟慮といったものによく似た営みがそこで行われているという印象。時の推移にかかわらず、時代の推移にかかわらず、多くの者が、ひじょうに多くの者が独りでここにやってきたに違いない。自分の想念を水のなかに流しいれるために、何事かを池に尋ねるために。この夏の夕つ方ここにいる者がいまやっているように。たぶん池が魅力を持つのはそのせいだ──水のなかにあらゆる種類の夢想や、不平や、確信を擁しているのだ。書かれたこともなく、口にされたこともないそれら。ただ流体のような状態で犇めきあう、実体性のかぎりなく希薄なそれら。葦の刃によってふたつに断ちきられ、その隙間を一匹の魚が擦り抜けていく。月の皓く大いなる円盤はそうしたものすべてを殲滅する。池の魅力は立ち去った者たちが残した想念の存在ゆえである。そして肉体から離れた想念は自由に、親密に、会話を交わしながら、出入りする。共有地のこの池に。(135頁)続きを読む投稿日:2023.02.16
半分以上は「どういうこと?」という感想だが、私も普段思考があっちこっち行くのでそれを可視化できる意識の流れが書かれている話は面白かった。
投稿日:2024.02.17
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