母親からの小包はなぜこんなにダサいのか
原田ひ香(著)
/中央公論新社
作品情報
昭和、平成、令和――時代は変わっても、実家から送られてくる小包の中身は変わらない!?
業者から買った野菜を「実家から」と偽る女性、父が毎年受け取っていた小包の謎、そして、母から届いた最後の荷物――。
家族から届く様々な《想い》を、是非、開封してください。
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商品情報
- シリーズ
- 母親からの小包はなぜこんなにダサいのか
- 著者
- 原田ひ香
- 出版社
- 中央公論新社
- 書籍発売日
- 2021.09.25
- Reader Store発売日
- 2021.09.21
- ファイルサイズ
- 0.6MB
- ページ数
- 264ページ
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この作品のレビュー
平均 4.1 (123件のレビュー)
-
あなたは『ダサい小包』を受け取ったことがありますか?
『吉川さん?宅配便です』。人から人へとモノを送る手段。それが『小包』です。ダンボール箱を用意して、モノを詰めて梱包し、コンビニに持っていけば日…本全国、さらには世界各地へとそんな『小包』を送ることができる今の時代。そんな『小包』を受け取ったことなどない、という人はいないと思います。私たちは手渡しという直接の手段を取らずとも、『宅配便』という手段によって『小包』を受け取ることができます。
そんな『小包』は何かしらの目的をもって送られたものです。もちろん、今の世では通販によって自分が注文したモノを自分で受け取るという場合も多いでしょう。しかし、そうではなく、あなた以外の誰かが、あなたのために送ったものもあるはずです。そんな『小包』の中には、その人があなたのことを思い、あなたのことを考えながら、心をそんなモノに託すかのように『小包』として送る、そんな行為の先にあなたの手元に届いた『小包』だってあるはずです。
この作品は、『宅配便です』と『小包』を受け取る主人公たちの物語。『こんなの東京にも売っている』と思いながらも中味を楽しみに取り出していく主人公たちの物語。そしてそれは、そんな一見『ダサい』モノたちの詰まる『小包』の向こうに、それを送ってくれた人の心を感じる物語です。
『ついに一人暮らしがはじまる。ここ東京で』と、『高円寺の駅の前に、大きなスーツケースと一緒に降り立った』のはこの短編の主人公・吉川美羽(よしかわ みう)。そんな美羽は、『三月に上京して一ヶ月ほど』『五つ年上の兄』の章の元に居候させてもらっていました。しかし、『兄妹が一緒に住むなんて、キモい』と言われ、住みたいと以前から思ってきた高円寺にアパートを見つけました。そして、不動産屋で鍵をもらい、『これが自由の証。親と何度もケンカし、さんざん母に泣かれて手に入れたもの』と思いながらアパートへと向かう美羽は、『母は「地元岩手第一主義」の人だ』と盛岡に暮らす母のことを思い浮かべます。『東京のようなあんなごちゃごちゃしたところ…』と、東京に行くことを嫌っていた母親が引き止める中、兄の援護もあって東京の大学へと進学できた美羽。そんな母親は、入学式の日に上京してきました。『とにかく、二年だからね。二年経ったら、絶対にうちに帰ってくるのよ』と言う母親に『はいはい』と『適当に返事を』する美羽は、『絶対に岩手には帰らない』と改めて思います。そして始まった東京での一人暮らし。しかし、『まだ顔見知り以上の人』ができない状況が続く美羽。そんな中、『美枝子があなたに会いたいんだって』と、母親の友達が美羽に『入学祝いを渡したい』と言っていることを伝えられます。そして、美枝子に会った美羽は、『東京に来る時はケンカばっかり』だったという母親との確執を話題にします。『母は岩手大好きですもん』と言う美羽に、『なにそれ。小百合こそ、昔は東京大好きだったのに』と母親の過去を語る美枝子に驚きを隠せない美羽。そして、自宅アパートへと戻ってきた美羽は、『家のインターフォンが鳴った』のに気づきます。『吉川さん?宅配便です』と『大きな段ボール箱』を受け取った美羽。急いで箱を開けると、『最初に目に入ってきたのは地元の新聞「岩手日報」』でした…』と続く最初の短編〈上京物語〉。「母親からの小包はなぜこんなにダサいのか」という書名がプラスの感情をうたったものであることがよく分かるほっこりと気持ちが温かくなるような好編でした。
六つの短編が連作短編の形式をとるこの作品。うち二つの短編に人物的な繋がりはありますが基本的にはそれぞれ異なる境遇に置かれた主人公たちのそれぞれの物語が紡がれていきます。そんな短編を連作短編としてまとめているのが、書名にもある『小包』です。六つの短編の主人公たちは物語の中でそれぞれに思いを寄せる人物から『小包』を受け取ります。そして、そのことが主人公たちに何らかの感情を生んで物語は進んでいきます。では、そんな六つの短編を 主人公と共に簡単にご紹介しましょう。
・〈上京物語〉: 吉川美羽、大学生。盛岡を後にし東京で一人暮らしを始めた美羽は、『これでやっと本当の何かが始まる』と感じる中に慣れない生活をスタートさせます。そんな中、上京に反対した母親から『小包』を受け取ります。
・〈ママはキャリアウーマン〉: 新井莉奈、専業主婦。夫の転勤でOLを辞め北海道へと移り住み『家にいられるだけで幸せ』と思う莉奈は、キャリアウーマンとして働く母親から就職を急かされます。そんな母親から『小包』が届きます。
・〈擬似家族〉: 石井愛華、会社員。『群馬のありんこ』から通販で群馬の野菜などを『小包』で受け取る愛華は、野々村幸多に両親に会って欲しいと言われ戸惑います。幸多を理想の男性と思うも彼に隠し続ける”ある事”に思い悩みます。
・〈お母さんの小包、お作りします〉: 都築さとみ、家業手伝い。『二十代後半の五年』を『男に費やし』、歳月と金を失って故郷へと戻ったさとみ。実家の母親が始めた仕事を手伝い、『小包』を送る日々の中で何かを掴んでいきます。
・〈北の国から〉: 内藤拓也、会社員。父が亡くなり『自分は天涯孤独の身の上になった』と、広島の実家をどうするか考える拓也は、父のアドレス帳に名のない槇恵子という北海道の女性から『小包』が毎年届いていたことに気づきます。
・〈最後の小包〉: 後藤弓香、会社員。『容態が急変した』という連絡を母親の再婚相手から受けた弓香は大阪から千葉へと向かいます。再婚相手をよく思わない弓香。そんな弓香が『小包』を受け取ります。
六つの短編で『小包』の送り手とその中味、そして届くタイミングは、それぞれに異なります。しかし、そのそれぞれの『小包』は絶妙に物語を彩っていきます。『SNSで大学生らしき女性の「オカンから送られてきた小包が超ダサいから見て」という投稿を見た』ことがきっかけでこの作品を書いたとおっしゃる原田ひ香さん。そんな原田さんは『小包には米、地方の菓子、肌着などが詰め込まれており「40年ほど前、祖母から母へ送られてきた小包と中身が変わらないことに驚いた」』と続けられます。自分宛の『小包』を受け取ったことなどない、という方はいないはずです。またその一方で『小包』を誰かに送ったことがあるという方も多々いらっしゃると思います。しかし、その中味、そして『小包』を送る目的というものは千差万別です。この作品で主人公の元に届いた『小包』を送る主となるのは例えば一編目、二編目では、実の母親です。一人上京した娘のことを思い、もしくは遠くへ引っ越した娘のことを思い、『小包』を送る母親の気持ちというものには、娘のことを思いやる優しい眼差しが垣間見える、これは小説以前の自然な感情だと思います。そんな親しい関係性の中に下手な飾り気は不要です。親が子供のことを思い、『小包』に詰めていくモノたち。娘がリクエストしたものでない限り、それらは親の一方的な思いです。飾り気のないそれら箱の中味は、予期せぬものでもあると思います。「母親からの小包はなぜこんなにダサいのか」という書名のこの作品。『ダサい』という言葉は間違いなくマイナスの表現に属します。『ダサい』と言われて喜ぶ人などいないでしょう。しかし、母親からの愛情の詰まった『小包』をマイナスの感情で捉える人などいないはずです。そう、一見マイナスで表現される感情が実は嬉しい感情の裏返しということがこの物語には絶妙な温度感で描かれていました。それは、それぞれに描かれるすべての短編に共通したものです。『ダサい』からこそ温かい、『ダサい』からこそホッとする。その『小包』をそれぞれの思いを込めて梱包してくれた人の姿が『小包』に浮かび上がるその瞬間。六つの短編は、それぞれにそんな人の温かい心の有りようを伝えてくれたように思いました。
『今度、小包でなんか食べるものを送ってあげるから、ちゃんと自炊して食べなさい』。親にとって子供とは幾つになっても心配の種であり続けます。今の時代、お金があれば飲食に困ることなどないはずです。しかし、それでも敢えて『小包』で送るという行為は決してなくなりません。それは、そんな親が『小包』に入れるモノを通じて、間接的にでも離れた場所にいる子供と繋がろう、自分の手で用意したモノのその先に、子供の健康を守りたい、そんな親の深い愛情の結晶が『小包』という形で現れているのかもしれません。
『小包』というものに送り主の深い愛情がこめられていることを強く感じさせてくれたこの作品。この作品を読んで『小包』というものが持つ深い意味合いを改めて考えるきっかけとなりました。そう、読む前に書名から受けたマイナスな印象が、読後全く別物に感じられるようになった、そんな人の優しさに触れることのできた作品でした。続きを読む投稿日:2022.03.30
タイトルに惹かれて読み始めて、読みやすい短編集だなーと思いながら読み進めていたら、まさかの最後6話目の「最後の小包」で泣かされた。
投稿日:2024.04.11
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