ロウソクの科学
ファラデー(著)
,三石巌(訳)
/角川文庫
作品情報
「この宇宙をまんべんなく支配するもろもろの法則のうちで、ロウソクが見せてくれる現象にかかわりをもたないものは一つもないといってよいくらいです」ロンドンの貧しい鍛冶屋の家に生まれたファラデーは、1本のロウソクを用いて科学と自然、人間との深い交わりを伝えようとする。子供たちへの慈愛に満ちた語りと鮮やかな実験の数々は、科学の面白さ、そして人類の未来をも照らしだす。時を超えて読者の胸を打つ感動的名著。
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この作品のレビュー
平均 3.2 (39件のレビュー)
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6つの化学実験講座です。
どこかのこども科学教室のメモかと思いきや、大科学者であるファラデーが英国王立研究所で行ったクリスマス講演実験をまとめたものだったのでちょっと驚きました。19世紀後半は、日本…の高校程度のレベルだったとおもわれます。
本文は、文庫で200頁ほどなのでさくさく読めます。
ですます調で書かれている科学論文?を、というか、講演会の口伝のような語り調はちょっとわかりにくいので、わかりやすく替えてもいいのではないかとおもいました。なれって恐ろしいですね。
挿絵も1860年代後半の時代を表しているもので、論旨を問うならもっとわかりやすい絵を使った方がいいのではと感じました。
実験の流れは良かったかと思います。ただ、元素については、決めつけているので、ちょっと違和感はありました。
目次は、以下です。
序文
第一講 一本のロウソク その炎・原料・構造・運動・明るさ
第ニ講 一本のロウソク その炎の明るさ・燃焼に必要な空気・水の生成
第三講 生成物 燃焼からの水・水の性質・化合物・水素
第四講 ロウソクのなかの水素 燃えて水になる・水のもう一つの成分・酸素
第五講 空気中に存在する酸素・大気の性質・その特性・ロウソクのそのほかの生成物・二酸化炭素・その特性
第六講 炭素すなわち木炭・石炭ガス・呼吸および呼吸とロウソクの燃焼との類似・結び
訳註
解説続きを読む投稿日:2022.10.03
このレビューはネタバレを含みます
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レビューの続きを読む
今年のノーベル化学賞に選ばれた旭化成の名誉フェロー、吉野彰氏。彼が言及したことによって、ふたたび注目を集めた本がある。古典的名作、『ロウソクの科学』だ。…
本書に収録されているのは、「ファラデーの法則」で知られるファラデーの、クリスマス講演の内容である。ファラデーは1本のロウソクを通して、科学の面白さ、自然の法則、そして人間同士や人と世界との交わりを伝えている。
読み進めていくうちに、ファラデーの講演の構成がいかに緻密か、気づくことだろう。誰もが見慣れた1本のロウソクから話を広げ、科学的な法則を少しずつ導入し、集まった少年少女たちの知識を少しずつ積み上げていく。普段当たり前のように受け入れている現象の不思議さを説き、その背景にある仕組みへ目を向けさせようとする。実験の内容は、現代の理科の実験でも採用されているものが多数含まれており、少年少女たちの心をつかむような工夫の凝らされた実験も盛りだくさんだ。幼少期に吉野氏が、本書を読んで科学のおもしろさを感じたというのも納得の内容である。
古典的名作ということもあり、現代の読者にはやや読みにくいところや、実験の内容がわかりづらく感じられるところもあるかもしれない。しかしファラデーのメッセージは、現代にも通ずるものだ。学生時代に戻ったつもりで、科学のおもしろさにいま一度浸ってみてはいかがだろうか。
要点1:私たちの身近にある1本のロウソクには、この宇宙を支配するすべての法則にかかわりがあると言っても過言ではないほど、たくさんの科学的な現象が起こっている。
要点2:当たり前だと思って見過ごしてしまうような現象にも、たくさんの不思議が隠れている。それを見つけ、考える視点を持つことが重要だ。
要点3:ロウソクのように周りを明るくし、人とかかわりを持ちながら、自分の義務をはたす人間になってほしい。それがロウソクを使った講演を行った著者からのメッセージだ。
1本のロウソクが教えてくれること
宇宙を支配する法則を見せてくれるロウソク
この宇宙を支配する法則のうち、ロウソクが見せてくれる現象に関わりがないものは1つもないくらいだ――ファラデーは講演に集まった少年少女たちにそう語りかけ、実験を始める。誰もが身近に感じられるだろうロウソクを題材に、聴衆に科学を親しみやすい形で見せようとしたのだろう。
普段何気なく目にしているロウソクだが、石油ランプと比較して燃え方を考えてみると不思議なことに気がつく。石油を油つぼにいれ、そのなかに芯をたてて火を灯す石油ランプでは、炎は芯をつたって下にいき、油の表面で消えている。考えてみれば、油自身は燃えないのに、芯の上だけは燃えるのは不思議ではないだろうか。
ロウソクではもっと不思議なことが起こっている。ロウは固体であり、液体と違って動くことができない。それなのにどうしてロウは、炎のところまで上っていって燃えることができるのだろうか。
不思議な現象に目を向け、原因を理解する
この不思議な現象について、ファラデーは次のように解説する。火をつけたロウソクをじっくりと観察してみると、ロウソクの先端部分がくぼんでいくことに気づくはずだ。あたかもきれいなカップのように。
ロウソクの周りの空気は、炎の熱で温められる。熱せられた空気は上へ動く。そうすると、ロウのヘリの部分には熱せられる前の空気が入り込み、ロウソクの中心部よりもへりの部分のほうが低温に保たれることになる。その結果、カップの内側の部分が溶ける一方で、外の周りの部分は溶けない状態になる。ロウソクの先端部分にできたカップは、規則正しい上昇気流によって形作られているのである。
しかし風によってロウが外側に流れ出したり、装飾が施されたりして不規則になったロウソクは、上昇気流が均一ではなくなり、燃え方が悪くなる。火の灯らないロウソクはいくら美しく装飾が施されていたとしても失敗作だと言えよう。
ファラデーは飾りロウソクの設計者のこのような失敗を例にあげ、やってみなければえられないような性質の教訓について、「何が原因だろうか」「何でこんなことが起きるのだろうか」と疑問を持つことの大切さを呼びかけた。
毛細管現象で上へとのぼる液体
ロウソクのさらなる謎は、溶けて液体となったロウがどうやってカップから出て芯を上り、炎の燃料となることができるのかということだ。
ファラデーは食塩を使用した実験で、毛管引力(毛細管現象)について説明を行う。食塩の山と青く染めた食塩水を用意し、食塩水を食塩の皿の上へと注ぐ。すると青い液体は食塩の山をのぼり、食塩は青く染まっていったのだった。
これは管状の物体の中を液体が登っていく、毛管引力によるものだ。私たちがタオルで手を拭くことができるのも、毛管引力のはたらきによるものである。身近で当たり前に感じられるような現象でも、理由を考えてみると不思議に思えるものがある。それをなぜと考えるのは、とても重要なことなのだ。
燃焼で消えるロウソクと、新たな生成物
ロウソクはどこへ消えるのか
ロウソクは燃えるとだんだん短くなっていき、最後には姿を消してしまう。いったいロウソクはどこへ消えるのだろうか。
ファラデーはロウソクとガラスの曲管、フラスコを用意し実験を行った。ロウソクの炎の中心に、ガラス管の端を差し込む。ガラス管の反対端には、フラスコを置いておく。そうするとフラスコには、炎から発生した何かがたまっていく。その正体はロウソクの燃料物質が蒸気になったものだ。
さらにファラデーは、ロウソクの炎の中心にガラス管を差し込み、ガラス管の反対側に火をつけた。するとロウソクから離れたところに、ロウソクの炎と同じ炎をつくることができた。つまりロウソクに火が灯るとき、蒸気の生成と蒸気の燃焼が起こっているのである。
ちなみにロウソクの熱がどこにあるかを調べるため、ロウソクの炎の中心に紙テープを差し込むと、炎の外側にあたる部分の2箇所が焦げて、中央ではほとんど焦げなかった。このことから化学反応が起こって熱が高まるのは、ロウソクの炎の外側ということがわかる。
燃えるとできる水
ロウソクの燃焼の結果として、ある種の生成物が出る。それははたしてどれくらいの量なのか。それを示すために、ファラデーは熱気球船を用意した。
燃料となるアルコールを入れた皿をロウソクのカップに見立て、その上に煙突のように管をかぶせる。燃料に火をつけると、燃焼の生成物は管の上から出てくる。この生成物は、ロウソクの燃焼であらわれるのと同じ物質だ。煙突の上に風船をかぶせると、たちまちふくらむ。そして風船は上へとのぼっていく。燃焼によって多量の物質が発生したというわけだ。
ただロウソクの燃焼の場合、ほかにも生成物が出る。生成物のなかの凝結性の部分の正体は、ただの水だ。氷と食塩を入れた器の下でロウソクを燃やす。するとそこにはロウソクから出てきて凝結した水を観察できる。可燃性の物質は、燃焼によって水をつくるのだ。この炎から出てくる水は、いったいどこからきたのだろうか。
水はロウソクの中にあったわけでも、空気中にあったわけでもない。空気中にある酸素と、ロウソクに含まれている水素原子が合わさって水になったのである。
ロウソクにまつわる気体酸素を「テストガス」で可視化する
水を電気分解すると、水素と酸素ができる。そのことを実験で示したあと、ファラデーは空気と酸素の違いについて検討する。空気中にも酸素が含まれているが、ロウソクの炎は空気中と酸素中で燃え方が異なる。酸素中のほうが、ものはよく燃える。
ファラデーは一酸化窒素を用意し、酸素の有無を可視化した。一酸化窒素は酸素と反応すると赤褐色になる。空気中にも酸素が含まれているので、一酸化窒素と空気を反応させると、やはり赤褐色の二酸化窒素になる。
だが空気の入った瓶と酸素だけを入れた瓶を用意して、一酸化窒素と反応させると、どちらも赤くなるが色の濃さが異なってくる。空気には窒素という、酸素以外のものが含まれているのだ。
空気中の窒素の割合は、酸素よりもはるかに大きく、風変わりな性質を持っている。水素は自分で燃え、酸素は小ロウソクを燃やすことができるが、窒素はすべての物質の燃焼を妨げる。においもなく、水にも溶けず、酸でもアルカリでもない。一見するとつまらない性質のように思えるが、だからこそロウソクからたちのぼるニオイや煙を運び去ることができる。また植物を養うことで、人類に対して恩恵をもたらしてくれる。
燃焼で得られるもう1つの生成物
ロウソクを燃やすとさまざまなものができる。これまでの実験では水に着目していたが、他のものは空中に逃してしまっていた。今度はこの逃したものについて調べてみる。
火のついたロウソクの上に、煙突のような容器をかぶせ、上からも下からも空気が出られるようにしておく。煙突の上から出てくる気体のそばへ別の火を近づけていくと、火は消えてしまう。
そこで今度は空の瓶を燃えているロウソクの上にかぶせ、ロウソクの燃焼で得られた生成物を瓶に集めることにする。ファラデーが石灰水をつくり、ロウソクから得られた気体の入ったビンに入れたところ、石灰水は白く濁った。これはロウソクから出てきた気体が、二酸化炭素であったことを示している。
燃えてできる炭素の行方
酸素が足りなくてロウソクが不完全燃焼をするときは煙、すなわち炭素が出て、完全燃焼をするときには炭素は出ない。海綿にテンピン油を染み込ませ、それに火をつけると、煙が立ちのぼる。それを酸素で満たしたフラスコのなかに入れると、煙はすっかりおさまる。
酸素や空気の中で燃えた炭素は、二酸化炭素になって出ていく。だが燃えるのに十分な酸素がないとき、炭素は煙になって外に出ていくのだ。
【必読ポイント!】 私たちと世界の関わり
ロウソクの燃焼と私たちの体
ロウソクの燃焼と、私たちの体の中で起こっている現象にも、似たところがある。ファラデーは2つのガラス管を用意し、トンネルのような溝で2つの管を繋いだ装置を用意した。一方の管には火のついたロウソクを入れ、一方からは呼気を吹き込めるように穴が開いている。
管に息を吹き込むと、ロウソクの火は消えてしまった。これは火を息で直接吹き消したのではない。呼気を送り込んだことによって酸素が足りなくなり、その結果として火が消えたのだ。
石灰水に呼気を吹き込むと、白く濁る。私たちは呼吸によって二酸化炭素を出している。ロウソクの燃焼と私たちの呼吸、どちらも二酸化炭素を生成するという点で共通しているのはおもしろいことだ。
1本のロウソクになるべし
ロンドンでは、24時間に住民の呼吸だけで548トンほどの二酸化炭素がつくられているのだという。これがもしそのまま溜まっていけば、私たちは呼吸をすることができなくなる。しかし呼吸によって生じた変化は、地球の表面上に生成する草木にとっては生命そのものである。水の中の魚も、空気から水に溶け込んだ酸素で呼吸をしている。
ファラデーは講演の最後に、生きとし生けるものすべてと自分につながりがあるのだと語る。そして聴衆に「1本のロウソクにたとえられるのにふさわしい人になってほしい」と呼びかけるのである。ロウソクのように、まわりの人の光となって輝き、自分の活動を通して、ともに生きる人たちに対する義務を果たしてほしいのだと。
ファラデーの実験と講演は、こうして幕を閉じた。続きを読む投稿日:2023.08.12
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